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大うつ病性障害の診断について1

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大うつ病性障害の診断について1~中核症状の捉え方~DSM-Ⅳ-TR:大うつ病エピソード(Major Dpressive Disorder:以下MDD)の診断基準の使用法~(米国精神医学会)

はじめに
 欧米人に比べ,私たち日本人は自分の気持ちを人にストレートに表すべきでないという姿勢や国民性が伺われ,特に一般科医に対しては身体のことのみを述べることがエチケットだと思っていることが多く,「心の動きに敏感に反応し,それを言葉で表現するのが苦手なタイプ」であるアレキシチミアという性格で心身症になりやすいタイプが多いといわれています。Wazaらの報告(1999年)では,日本人のうつ病患者では欧米人と比較して,腹痛や頭痛,頸部痛などの痛みを訴えることが多いと指摘しており,大うつ病の診断基準を十分に満たす患者より,身体症状が前面にみられる(従来の仮面うつ病)タイプの受診が比較的多いと考えます。いずれにしても,初診のみならず,日常診療における再診患者の中でも,いつもと何か様子が違うように見えたことはないか?常にモニタリングしていく必要があり,時折,身体症状以外のうつ病症状について主治医の方から尋ねてみることが臨床上,大切です。

自発的なうつ状態に関する訴えがなくても,以下のような場合は疑う必要があります。
1)不眠,食欲低下などを含めた多彩な症状の訴えがある場合
2)「何となくだるい,痛い,ふらつく」など,捉えどころのない曖昧な症状がある場合
3)身体所見や検査結果に比べて,患者さんの訴えが強い場合
4)すでに色々な検査をしても異常がなく,しかも症状が長く持続している場合
5)「この症状さえとれたら,元気でやれそうな気がする」と訴える場合
6)調子が悪くても,「休むことはできない」という場合

以上が伺われる場合に,以下の現行診断基準(DSM-Ⅳ-TR)を適用させます。
その前にまず,(Vol.6 と7を参考に)軽躁病・躁病エピソードの除外を行います。
その上で,以下の中核症状①と②を尋ねますが,下記2項目のうち1つ以上に該当し,「ほとんど1日中,ほとんど毎日あり,2週間以上にわたっている」ことが必要となります。

①抑うつ気分:感情面の障害;薬効性は比較的得られやすい

尋ねるポイント
「気持ちが沈み込んだり,滅入ったり,憂うつになったりすることがありますか?」
「物悲しくなったり,淋しくなったり,落ち込んだりすることがありますか?」
「朝起きた気分はいかがですか?」
「気分が鬱陶しくはないですか?」

うつ病の患者さんの多くは,気持ちが沈み込んで憂うつになっていますが,「憂うつ」の意味するところは各個人でかなり異なっているため,うつ病診断における重みづけに関しては診察する医師の臨床的力量や経験が問われます。抑うつ症状全般に認めるものですが,うつ病初期に目立つ「朝が特に憂鬱が強い」という日内変動や, 苛々や不快な感じがするという気分の鬱陶しさを訴えることがあるとわかりやすいでしょう。うつ病患者の場合,この日内変動が,平日だけでなく,休日にも認められることが見分けるポイントとなります。勿論,逆のパターンを示すうつ病や重症化すると不明瞭になるか消失する患者もみられます。しかし,実際には「表現のしようがない」「言いがたい気分」と述べるか,気持ちを表立って口にしない傾向が強い場合も多く,患者の訴え以外に初診の入室時に以下の表現症状を感じ取り,評価する必要があります。

①泣き出しそうな印象
②微笑がなく,愛想笑いすらない物悲しい非哀感
③覇気がなく,憔悴しきった表情・雰囲気
④苦悶に満ちた表情
⑤口数や言葉数が少なくなり,生気のない小声での話し方
⑥表情の乏しさや暗さ,硬さ
⑦ うつろな視線や悪い姿勢


加えて,身体に局在する憂鬱として身体の痛みや「身体が重い」「頭が重苦しい」といった倦怠感・違和感などの身体的感情(例:頭部,胃部や胸部に限局した不快で重苦しい圧迫感)を伴う抑うつ気分(身体的不調と精神的抑うつが同時に存在)を主に訴えることもあります。ひとりでに浮かんでくる漠然とした身体の不調や重苦しさとして感じられ,ほとんど周囲の出来事の影響を受けません。これは,ドイツの精神病理学者Kurt Schneiderが(従来の内因性うつ病の後継概念に相当する下位分類としてDSM-IV-TRによるメランコリー型の特徴の判定基準が該当する)内因性うつ病の重要な診断標識として位置づけ,表現した「生気的悲哀(抑うつ)(vital Traurigkeit)」といって「通常の悲哀とは異なる身体に局在する生命的感情:生気感情の障害」を指します。

②興味または喜びの喪失:意欲・行動面の障害


尋ねるポイント
「仕事や趣味など,これまで普段楽しみにしていることに興味を感じられなくなっていますか?」
「色々な事に関心や喜びを持てますか?」
「今まで好きだったことを,今でも同じように楽しくできていますか?」

何をしても面白くないし,何かをしようという気が起こらなく,親友や恋人・家族でさえも,
会うのも鬱陶しいし,天気が良くても外出するのも面倒に感じ,億劫な状態をさします。次第に趣味や習慣など個人特有の好きだったことにも熱中できなくなり,向き合えなくなる結果,社会的・性的な関心や欲求が著しく低下し,自分の世界に引きこもることになります。仮に本人からの訴えがなくても,一般的な女性であれば,服装や化粧,髪型,身だしなみに対して急に興味がなくなることや,急にずぼらになった様に客観的に観察できることからも伺えます。この症状は,うつ病の完成型の症状であり,いきなり,このような症状が出現するわけではありません。ひどい場合は,生気障害である抑うつ気分(上記①)が強くなると何ごとにも感情そのものが動かなくなるので,「悲哀さえ感じない感情喪失状態」となります。かつて,Schulte Wは「悲しめない」ことをうつ病の症状として重視しましたが,「喜びも悲しみもなく,全てが親しみのない無縁に感じられ,気分が全面的に沈下しているのではなく,喜怒哀楽に代表される気分のベクトルが全面的に遮断された状態」である「悲哀不能(Nicht-traurig-sein-konnen)」という概念を見出し,内因性うつ病として診断的価値が高い標識としました。この悲哀不能による感情喪失感は,場合によっては,周囲のものが生き生きと感じられない離人症状に接続することが考えられます。これらは,米国精神医学では,「興味・喜びの喪失」を意味するアンヘドニア(anhedonia)という術語によって置き換えられています。最も重要なことは,生産的な活動を要請される現代人にとって,たとえ,他のうつ症状が改善されても,本症状が回復しないことには真の社会復帰への参入は困難になるという現実です。これには以下の2つの要素が観察されます。
① 外見から分かる客観的な動作面の抑制
②「億劫で何をしても面白くない」「長続きしない」という心理的主観の抑制(特に薬効性が低いとされます)


参考文献・資料
坂元 薫:第1部 総論 / 第4章 症候学「気分障害」 医学書院 2008年
濱田 秀伯:症候論5うつ状態 臨床的側面「精神医学対話」弘文堂2008年
内海 健「うつ病新時代-双極 II 型障害という病」東京:勉誠出版;2006年
内海 健「うつ病の心理 失われた悲しみの場に」東京:誠信書房;2008年
神庭 重信・黒木俊秀(編):「現代うつ病の臨床 その多様な病態と自在な対処法」創元社2009年
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by jotoyasuragi | 2010-03-12 08:49 | 心理教育シリーズ

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