城東やすらぎグループ ブログ

jyasuragi.exblog.jp
ブログトップ

心理教育シリーズ Vol.2 「社会不安障害について」

d0097634_104134.gif


はじめに


 社会不安障害(Social Anxiety Disorder、以下SAD)は、近年、米国ではうつ病、物質乱用に次ぐ3番目に多い精神疾患とされ、比較的高率に出現する不安障害です。社交場面では緊張症状として身体化反応を起こすことが多いですが、実際には、これのみを問題として医療機関を受診することは少ないのが現状です。SADは特定の社会的状況のみならず多くの社会的な状況に対する困難性、学業や職業上また婚姻や日常の社会生活全般に大きな障害をきたしていることが多いです。加えてうつ病やアルコール依存、他の不安障害(広場恐怖、全般性不安障害)の合併が3分の1程度に認められ、SADがこれらに先行して発症する(70~80%)ことが多いため、早期発見・早期治療が重要になってきます。

SADの出現率

 SADは人口の7~13%と高率に認められ、男性よりもやや(特に若年の未婚)女性に多いです。通常10代中頃から20代前半に始まり、自然治癒せずに慢性疾患となる傾向があります。この背景にはSADの症状を自分の内気な性格の問題として治療を求めないことが多く、彼らが適切な治療を求めたり見つけたりするまでに何年もかかっていることが考えられます。従って、面接に失敗し、就職・就労が困難となり、上司の叱責に萎縮して出社できなくなるなどの引きこもりになる人達が増えていますが、現在、引きこもりの数は推定163万人いるといわれ、その多数はSADや本疾患と併発しやすい回避性パーソナリティ障害の患者が含まれていると考えられます。

正常の社会不安との違い


 多くの人達が自分のことを内気だと言いますが、これが意味することの明らかな定義はありません。他人に対して内気なことや自意識過剰は幼少の頃から時々見られます。他人が自分のことをどう見ているかについて思い巡らし始める10代の頃には自意識が亢進し、ほとんどの人にとって、この種類の社会不安は年齢とともに減少します。大勢の前で話し、なじみの薄い社会的な集まりに1人で顔を出すことなどは常に不安を伴いますが、正常な社会不安は機能障害を起こすことはなく、出来事の最中もしくは終了後にすぐに落着くことでしょう。否定的な評価に対する恐れもあまりありません。それに対してSADの人は社会的状況の前から悩み始め、不快感がその状況に留まっている間はどんどん悪化し、次の機会には更にもっと不安になります。ことが終わった後でも、不満足であった自身の行動の様々な側面についてくよくよ考えます。次第に他者との交流が回避され、社会的状況での顕著な不安を引き起こすような重度な内気は、おそらくSADと言ってよいでしょう。患者のおかれている文化によって「内気」という言葉の意味は異なりますが、SAD は単に「内気」ということでは説明が困難で、社会的活動にかなり支障を来たし、日常生活が思い通りに送れない状態を指します。SADの人達は普通、他人に欠点を指摘され、無能もしくは風変わりと思われることを恐れます。彼らは、人に見られながら何かをするときは勿論、ひょっとして注目を引くかもしれないというだけの状況でさえ、人との社会的な関わりの中で否定的に評価されるのではないかと心配し、時には、他人といるだけでの状況でも起こることがあります。SADの人は、不安だと見えることや、何か恥ずかしいことをいったりしたりすることや、ぎこちなく見えることや失敗することにより、人から否定的に評価されることになると信じています。また自分の外観や振る舞い故に批判を招きがちであると信じている人もいます。こうして社会的状況における様々な不適切な学習の結果、これらの過剰な不安が獲得されるのです。

SADの原因

 確実なことはまだ不明ですが、発症に関係する最も重要な要因は、神経伝達物質であるセロトニン神経系ノルアドレナリン神経系の感受性と反応性が高いことによって生じる不安一般に対する脳内の生物学的脆弱性と考えられ、特に前者は不安症状の発現に、後者は自律神経系(特に交感神経系)の亢進による患者の赤面や動悸、震え、発汗といった症状と間接的に関連していると考えられています。加えて、恐怖の認知や不安の表出に深く関わっているとされる脳内の(大脳中心部にある)扁桃体を中心とした(不安恐怖回路と呼ばれている)情報伝達の過剰な活動が背景にあると考えられ、PET(Positron Emission Tomography)という脳の画像診断によると大勢の人の前で話すときの扁桃体や(記憶を司る)海馬などの活動性の上昇を認めることから、扁桃体-海馬領域のネットワークがSADの患者の不安と関連していると報告されています。更に、近年、脳内報酬系に関連する(線条体の)ドーパミン系機能の低下が示唆されており、他者との社会的な繋がりに対する危険と利益の評価するシステムの機能が障害されているという報告もあります。これらの生物学的要因以外には家族環境の様々な側面が元々の感受性の高さや内気さに影響を与え、自信を強めて社会適応をより容易にする方向に働かず、逆に心配や懸念を強める方向に働くことや、見知らぬ状況に対する恐れと回避傾向を常に示す幼児(乳幼児期にはイライラや極端な恥ずかしがり、臆病などの情緒的高反応を有し、就学前から物静か、用心深さ、孤立、見知らぬ状況での極端な行動抑制、生理学的過覚醒などの特徴を示す)の気質(behavioral inhibition to unfamiliar)が将来のSADと有意に関連する報告があることから、環境・養育要因ストレス要因などが加わり発症するのではないかとおもわれます。どのような外的な出来事に直面しても強く反応し、しばしば不安と神経過敏を伴うような人が多く、このような人は様々な不安障害になる危険性が高いと思われます。SADが、ある単一の出来事の後に発症するということは稀です。但し、限局性のSADでは、全般性に比べればそういうことが多いです。SADの人達は、自分のことを感受性が高く、感情的で、くよくよしやすいと述べることが多いです。このような特徴は遺伝する傾向がありますが、批判に大変敏感であるか、良い印象を作ることに過剰に関心がある人々は、SADによりなりやすいといえるでしょう。

SADの症状

 SADの多くは思春期から成人早期にかけて発症し、慢性の経過をたどり、患者は、社交場面や他人の前で何かをするはめになることを恐れ避けようとします。例えば見知らぬ大勢の前でのスピーチや人前での食事や書字、公共トイレの利用、パーティへの参加、権威のある人(上司や先輩、先生)との面談などです。こうした自分が恐れている状況に入る可能性があると強い不安を感じて、そうした状況を避けようとした結果、対人的関係の構築が妨げられ、やむをえずそうした状況に入らなくてはならないときは、非常に強い苦痛を感じることになります。SADの中心となる過度な不安とは、自分が不安に感じていることを他人に気づかれ、笑いものにされるのではないかという恥ずかしい思いや、困惑した振る舞い(例えば手や声が震えたり、顔が引きつったり、頭が真っ白になったり、赤面など)をしてしまうかもしれないということへの持続的な恐怖です。この様な状況への暴露によって強い身体的な不安反応が引き起こされます。恐怖に対する警戒反応として自動的に全身の器官を調節している自律神経(交感神経と副交感神経)が体を守ろうと防御反応を起こした結果、そのバランスが崩れると全身機能に支障をきたし、交感神経系優位の様々な身体症状が出ます。例えば、顔面紅潮、動悸、息苦しさ、吐き気や胃腸の不快感、全身の震え、発汗、筋肉のこわばりや力み、脱力感、尿が近くなる、下痢、めまいなどです。成人の方ではその不安の過剰性不合理性は認識していることでしょう。SADは全般型限局型の2つのタイプに分けられます。前者では恐怖の対象は様々な社会的状況に広く行き渡っていますが、後者では限られた(2つ程度以下までの)社会的状況のみが恐怖の対象になります。全般型は限局型に比べ、早期に発症し、より深刻でかつ障害の程度も強いといわれています。近年よく治療評価に利用され、一般の方々にも比較的解りやすいとおもわれるSADの評価尺度LSAS(Liebowitz Social Anxiety Scale,日本語版2003)も当院には用意してありますので、興味のある方は一度いらしてください。

SADの治療

薬物療法

 H17年10月にSSRI(セロトニン再取り込み阻害剤)であるフルボキサミン(デプロメール、ルボックス)の国内で初めてSADに対する保険適応拡大が承認されました。海外では同じSSRIであるパロキセチン(パキシル)やセルトラリン(ジェイゾロフト)の臨床効果も報告されています。これらのSSRIは不安恐怖反応の中心にある扁桃体の過敏性を軽減させる作用があります。治療効果を得るには充分な量(全般型SADの場合:フルボキサミンならば150~300mg)まで増量することが必要であり、明らかな効果が得られるのには約2~3ヵ月以上はかかり、薬物療法での改善は約3~4割前後であることが報告されています(薬物療法のみで劇的に症状が消失する方々も一部おられます)。その他、ギャバ神経(γアミノ酪酸:GABA)という神経細胞が扁桃体の興奮を緩和し、身体化反応の発現を抑えることから、ベンゾジアゼピン系抗不安薬が有効とされますが、SADに対する効果について明確なのはクロナゼパム(ランドセン、リボトリール)のみとなっています。この薬剤は上記以外にセロトニンの合成及び機能を増強する作用も確認されています。SSRIに比べ比較的に速効性があるため、患者の仕事内容やライフスタイルに合わせて治療初期にSSRIとの併用を短期間行う場合、高用量でのSSRI単剤療法で治療効果が不十分な場合での併用、副作用によりSSRIが服用困難な場合、限局型SADの患者で不安恐怖が高い場面やエクスポージャーの初期のみ頓服として使用することがあります。これらの薬物療法は、短期的な治療効果に優れ、生活全般にわたり苦痛を強いられ生活上の支障をきたしている方々が主に対象として行われるのが一般的です。その際には、その効果と副作用(消化器症状、中枢刺激症状、鎮静による眠気、離脱症状など)に対する対処法の指導、(少なくとも1年以上の)長期投与の必要性や予後などを主治医からしっかりと説明を受けることが大切です。

認知行動療法

 薬物療法と並ぶ有効な治療法としてあげられますが、施行されている医療機関が限られているのが現状です。その内容としては、①不安とSADについての知識(心理教育)②不安とパニックのコントロール(段階的筋弛緩/リラクセーション)③不合理な考え方のパターンを変えること(認知の再合成)④人と接する機会を持つこと(社交場面への段階的暴露療法:エクスポージャー)の4つに分かれており、その効果は長期にわたる改善をもたらし、再発が少ないことが示されています(行動療法②③④についての詳細は別の機会にお話したいと思います)。
両者とも各々単独で有効なことが示されていますが、薬物療法が必要な時でも、症状が改善してきたら、適時認知行動療法的な技法を受けることがやはり重要です。それによってはじめて、薬物の漸減中止が可能となります。いずれにしても生活障害の程度により、各々単独あるいは併用により治療が行われます(Jクリニックでは両者を併用しています)。

まとめ

 SADとは、社会状況に対する苦悩ならびにしばしば機能障害も伴う過度の恐怖を言います。SADの人は、そういう状況で何かまずいことを言ったりして、当惑したり、恥をかいたり、拒絶されるかもしれないと恐れ、多くのタイプの社会的状況が恐怖や回避の対象となります。SADは単なる性格的な問題ではなく疾患であること、つまり適切な治療によって改善可能であるという認識を持つことが重要です。いまだ医療者の間でもSADに対する認識は十分なものではなく、実際に受診するケースが少ないため、SADの患者が治療による恩恵を受けられるようになるためには、精神保健従事者や学校教育者、一般科医、一般の人々にも啓発が必要とされるでしょう。



Jクリニック
http://www.jotoyasuragi.jp/clinic/index.html
院長 岡 敬
[PR]
by jotoyasuragi | 2007-05-23 15:13 | 心理教育シリーズ

金沢市にある医療・福祉施設です。


by jotoyasuragi