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カテゴリ:心理教育シリーズ( 15 )

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去る3月6日(日) 地場産業振興センターの本館2階第1研修室にて行われた
精神科臨床薬学研究会北陸ブロック H22年度 下期講演会 で、
当院の 岡敬理事長 が 講演
「双極性障害の治療について ~薬物療法を中心に~」
を行いました。(スライドは以下↓に)


双極性障害の治療~薬物療法を中心に~② の続き


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by jotoyasuragi | 2011-05-10 17:30 | 心理教育シリーズ
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去る3月6日(日) 地場産業振興センターの本館2階第1研修室にて行われた
精神科臨床薬学研究会北陸ブロック H22年度 下期講演会 で、
当院の 岡敬理事長 が 講演
「双極性障害の治療について ~薬物療法を中心に~」
を行いました。(スライドは以下↓に)


双極性障害の治療~薬物療法を中心に~① の続き


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双極性障害の治療~薬物療法を中心に~③ に続く
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by jotoyasuragi | 2011-05-06 17:10 | 心理教育シリーズ
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去る3月6日(日) 地場産業振興センターの本館2階第1研修室にて行われた
精神科臨床薬学研究会北陸ブロック H22年度 下期講演会 で、
当院の 岡敬理事長 が 講演
「双極性障害の治療について ~薬物療法を中心に~」
を行いました。(スライドは以下↓に)


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双極性障害の治療~薬物療法を中心に~② に続く
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by jotoyasuragi | 2011-05-02 15:30 | 心理教育シリーズ
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大うつ病性障害の診断について2 ~DSM-Ⅳ-TR:大うつ病エピソード(Major Dpressive Disorder:以下MDD)の診断基準の使用法~(米国精神医学会)

中核症状(前記Vol.10を参照)となる2項目のうち1つ以上に該当する場合,さらに,以下の症状(③~⑨)を併せて合計で5つ(またはそれ以上)が認められ,該当する全ての症状が「ほとんど1日中,ほとんど毎日あり,2週間以上にわたっている」ことが必要となります。


更に以下を全て満たしていることが条件となります。
混合性エピソードの基準を満たさない
症状のために著しい苦痛または社会的,職業的または他の重要な領域における機能の障害(著名な機能不全)を引き起こしている
これらの症状は一般身体疾患や物質依存(薬物またはアルコールなど)では説明できない
死別・悲嘆反応(正常心理の悲哀)では上手く説明できない


但し,それぞれの抑うつ症状を的確に捉える治療者側の診断学的精度が低いと誤診などの問題に繋がります。単極性うつ病診断は思ったよりも簡単ではないのです。近年,ネット上でも公開されている今流行のチェックリスト的な偽診断はうつ病診断そのものを浅く誤解し,単に症状の数合わせになり,憂うつの意味を無視してしまいかねません。そうなってしまうと診断一致率は高くなるものの,うつ病の範囲が広くなった結果, 誤診も多くなり,治療がパターン化して,安易に抗うつ薬が投薬されてしまう危険性が高くなるわけです(Vol.7軽躁病エピソードの捉え方2 DSM-IV-TR気分障害診断の問題点を参照)。

③食欲の減退あるいは増加,著しい体重の減少あるいは増加:抗うつ薬には初期に反応しやすい

尋ねるポイント
「いつもより食欲が落ちていますか?」
「減量しようとしていないのに,体重が減っていますか?」
「いつもよりずっと食欲が増えていませんか?」
「食欲が非常に増進して,体重が増えていませんか?」

一般にうつ病では食欲の低下や実際の食事量と不釣り合いに(大体1ヶ月5%以上の)大幅な体重減少を示すことが少なくないようです。意欲低下により食事をとる気力もなく,罪業妄想(下記⑦)のために食べる資格がないと拒食する場合もあります。また,味覚・空腹感の変化・減弱(喪失)により,「食べ物の味がしない」「何を食べても砂を噛んでいるよう」「口の中が苦く,渇いて唾が粘っこい」「あまり食べる気がしないが,食べなければいけないと思って,仕方なく食べている」「機械的に無理やり押し込んでいる」という表現の訴えも該当します。摂食障害的問題がみられないこと,特に過食や体重増加を伴う場合は,非定型うつ病や季節性うつ病の有無を確認する必要がありますが, この両者はチョコレート類を多食し,抑うつ気分の軽度の改善を自覚する患者も少なくありません。やたらと甘い物や炭水化物など特定の食べ物ばかり欲しく(糖分・炭水化物飢餓)なり,全体的に食欲が亢進することもあり,この様な甘味癖は特にうつ病の回復期に一過性に認めることがあります。

④不眠あるいは睡眠過多:睡眠リズム障害;抗うつ薬には初期に反応しやすい

尋ねるポイント
「睡眠の状態はいかがですか?」
「ほとんど毎晩眠れないということがありますか?」
「夜中に何度も目が覚めたり,朝早く目が覚めたりしますか?」
「眠気が強くて,毎日眠りすぎているということがありますか?」

うつ病になると,本来の睡眠-覚醒(生体)リズムが外界(環境)と協調しえなくなり,熟睡した感覚が得られなくなります。その結果,心身の疲労が回復しないまま,早朝暗いうちから「とうとう嫌な朝が来てしまったか」「また苦しい一日の始まりか」と溜息まじりの最悪の朝を迎えてしまいます。典型的な特徴としては,発症初期は比較的,入眠は保たれます(逆に入眠困難は疾病特異性に乏しい)が,普段より2時間以上早く覚醒してしまう「早朝覚醒」がみられ,特に内因うつ病では特徴的所見となります。実は,この時間帯は家族や周囲に救いを求めることが困難なことから,早朝から覚醒した後,悲観的なことを考えやすくなった結果,自殺企図に繋がりやすいことを念頭に置いておく必要があります。加えて熟眠感がなく,体調が優れずすぐに起き上がれないことが多く,夜中に目が覚める「中途覚醒」により,再入眠ができず,悪夢にうなされることがあります。反対に睡眠時間が1日10~12時間以上と極端に長くなり,過眠症状が現れることもあり,その場合は非定型うつ病や季節性うつ病,睡眠時無呼吸症候群などに代表される呼吸関連睡眠障害の有無を確認する必要があります。うつ病患者は,REM睡眠潜時の短縮徐波睡眠の減少多夢を認めることが多くなり,特徴的なポリグラフ所見として,健常者では90~120分であるレム睡眠潜時が36~56分と短縮していることが指摘されています。

REM睡眠:睡眠にはレム睡眠とノンレム睡眠があり,後者には浅いノンレム睡眠と深いノンレム睡眠に分けられ,深いノンレム睡眠は除波睡眠と呼ばれ,特に脳に休息を与え,疲労回復や身体の損傷部位の修復などの役割を果たしていると考えられています。人間は入眠後,比較的早い段階で除波睡眠に入り,その後レム睡眠やノンレム睡眠を繰り返しながら,朝の目覚めに至るのが通常のパターンとなります。高齢者の睡眠パターンは浅いノンレム睡眠が増加し,深いノンレム睡眠やレム睡眠が減少する為,①中々入眠できない②眠りが浅い③中途で目が覚めやすいなどの特徴を認めやすくなります)

⑤精神運動性の焦燥または制止(遅滞):外的制止;精神運動機能の障害 / 意欲行動面の障害:薬効性は比較的大きい

尋ねるポイント
「話し方や動作が普段より遅くなっていて,言葉が中々出てこないことなどを人から指摘されるということがありますか?」
「じっとしていられず,動き回っていたり,じっと座っていられなかったりすることが多くなっていますか?」

周囲から見ても立ち振る舞いや適切な返答などの身体的動作が遅くなり,口数が少なく,声のトーンが普段よりも小さくなり,会話が途切れがちになるということで気づかされる場合が多い精神運動制止または抑制(遅滞)を認めます。この症状は,かつてLangeが「生気的制止vitale Hemmung」と命名し,気分(中核)症状と並んで,内因性うつ病の診断標識とするものですが,症状が軽度の場合は,病的なものか否か?を判別することは困難です。その場合は,やはり,以前との違いを同伴者から確認するべきです。これらの抑制の程度が進むと,患者自身が「怠けている」と自責的になり,「うつ病」を理解できていない家族や上司・同僚から怠惰,性格上の問題とみなされ,批判や叱責の対象になることも稀ではありません。精神運動制止がさらに重症化(極期に移行)すると, 寡言・寡動がみられ,自ら何もしなくなる発動性の低下を認め,(意識障害はなく)周囲の状況は把握しているにもかかわらず,周囲の呼びかけや刺激には少しは応答する亜昏迷か全く反応しない抑うつ性昏迷に移行する場合もあります(いきなり昏迷状態に陥ることはありません)。

逆に不安や焦燥感が強くなると表面的には元気そうに見えるので注意が必要です。例えば,「焦燥うつ病」では,些細なことで怒りっぽくなり,やたらとイライラすることが多く,診察中に着衣をまさぐり,髪の毛や手背,頭皮など身体の各所を掻きむしったりして,表情も(談話や行動しようとする意欲があるにも係わらず,身動きできないという)苦悶様となります。うつ病性の不安も,これら気分の変調と制止を巡る不穏・苦悶とない交ぜになって出現することがあります。これらが,ひどくなると,じっと座っていられないほど,落ち着きがなくなりますので,部屋の中を歩き回り,立ったり座ったりして,ひどい場合は足踏みすることもあります。時に「首を絞めてくれ」と隣人に迫り,壁に頭を打ちつけるなどの自殺企図がみられることがあり,その訴えの色彩が,退行的で依存的,オーバーアクションな印象を周囲や治療者が真に受けてしまい,真剣に取り扱わなくなった結果,最悪,自殺に結びついてしまう危険性に十分注意すべきとおもわれます。また,これらは必ずしも診察場面で診られるわけではありませんので,家族・知人からの客観的な情報は必要でしょう。従来は,比較的に初老期・老年期に多いとされる不安・焦燥の強い(2005年にローマ大学Koukopoulos教授による新しい診断クライテリアが発表されている「激越性うつ病」では,意欲の低下が目立たず,かえって口数が多くなり,落ち着かなくなることがあります。また,これらの臨床的類似の傾向を示す患者の多くには焦燥うつ病や激越性うつ病と並んで,「混合性うつ病 Mixed depression(Benazzi,2007年)」「双極性混合状態(Perugi,Akiskal ら,1997年)」が疑われ,抗うつ薬の使用には,厳重に注意する必要があり,既に抗うつ薬を服薬中であれば,薬剤性(Activationや軽躁・躁転等)との鑑別が必要です。残念ながら,これら周辺症状は,現行診断基準では双極性障害や「混合状態」として捉えられず,診断学的にはKraepelinが定義する混合状態の再検証・再認識が注目されています。

⑥疲れやすさ(易疲労感)・気力の減退(意欲制止):内的制止;意欲行動面の障害

尋ねるポイント
「いつもより疲れやすくなっている,気力が低下しているとか,感じることがありますか?」
「朝起きて着替えるのに時間がかかりますか?」

身体を動かしていないのにひどく疲れやすく,身体が重く感じられるのもうつ病の特徴です。易疲労感については,実際に手足に鉛が詰まっているように感じる鉛様の麻痺や脱力感に近い身体的重圧感を認める場合は非定型うつ病の有無を確認する必要があります。また,物事をしようと思いながらも行動に移せず,根気がなくなり,何事も長続きせず,生産的活動性が低下します。気力の低下から何もする気が起きず,日中も臥床傾向に過ごすことが多くなり,(食事の支度や起床時の洗顔・歯磨きなどの)日常的なことに時間がかかるため,「何とかしなくては!」と余計に気持ちは焦るが,それをする気力がわかない状態になります。当然,行っていた仕事をするのも自覚的に億劫になり,普段より多くの時間を要するようになります。軽い段階では日常生活はなんとかこなせますが,通常業務のうち,例えば,企画・管理・創造性などに代表される(仕事の要求度(負荷や責任)や主観的ノルマが高く,自由度や時間的裁量権の低い)複雑化した業務を外部から要請されると全くこなせなくなります。

⑦無価値感または過剰(あるいは不適切)な罪責感(罪悪感):認知・思考面(の内容)の障害

尋ねるポイント
「自分は価値のない人間だと感じたり,悪いことをしたと自分自身を責めたりしますか?」
「努力しても将来失敗するのではないか?(取り越し苦労)と考えることがありますか?」

うつ病になると,過去の些細な(多くは不快な)出来事を思い出しては悩み,過去のことを後悔するようになり,ほとんど根拠なく自分を責めるようになります。一つのことを考え込んで,何回も他の人に確認をし,物事が上手く運ばないことを自分の責任のように思うことが強まります。このように取り越し苦労が増え,自意識・自尊心は低下し,無価値感も強まり,自己のパーソナリティや存在そのものに対する認知が著しく否定的なものへと飛躍することになります。また,これらを治療可能なうつ病の症状と認識できず,著しい苦痛となることが問題となります。加えて,虚無感が強くなると「何をやっても無駄」と述べ,食事や治療さえ拒否し,一見,うつ病にしては,病識を欠くように見えることがあります。Weitbrechtは罪業感にはうつ状態における作業能力低下によって「自らの責任が果たせなくなった」という負い目の表現として理解できる(当該診断基準では認められない)続発性のものと,他の抑うつ症状から導出できない(妄想的であることもあるというDSM-IV-TRテキスト記載から,妄想,非妄想を問わずに認める)「原発性罪業感」とが存在すると述べていますが,後者の場合は,より重症化した(下記にある)罪業妄想と表現したほうが理解しやすいかもしれません。罪業感は個人の価値基準のみならず文化的背景や規定性が大きく反映されます。かつて木村は,日本人の患者では,神・道徳・自己の義務などが内容になることは稀で,その代わり職場の同僚や世間などの周囲の人間仲間に対しての自己の在り方を責める傾向が強いと述べていますが,むしろ共同体構成員への負い目の投影として解釈される被害妄想的な色彩が伺われます。さらにこのような否定的・悲観的認知が進むと,現実把握が歪み,以下の様な訂正不能な確信性を伴う妄想に発展することがあります。

<うつ病にみられやすい三大微小妄想>
うつ病では,自分の能力や財産,健康を実際より過小評価して悲観的になり,これらを占有し続ける支配(優格)観念が意識内に長い時間,留まります。かつて,Schneiderは,うつ病性の三大妄想を「単なる精神病の「症状」として把握すべきでなく,それは人間の原始不安に関するものであり,それが抑うつによって単に露呈されるのであって,積極的に生産されるのではない」とし,妄想主題が個人の人格と価値志向性に強く依存していることを示しました。Jaspers Kは,これらの妄想を真性妄想ではなく感情から了解できる妄想様観念であるとし,阿部は,うつ病の妄想が,患者の理想的な健康が失われて日常的な営みが遂行できない不能性を背景に設立するとしています。内海は(2006年),抑うつ気分の逆説の中で,微小妄想に代表される抑うつ思考には,微小から誇大へ針小棒大の如き,誇大性への回路(一体化願望や背負い込み)がしばしば,入り込むと述べています。以下は各々,「相互のために」「所有物のために」「自分自身のために」という基本的態度が伺われます。

①罪業(罪責)妄想:過去の犯した過ちや些細な過失の結果,今の状態になったと訴える場合を指します。「周囲に迷惑をかけ,信頼に値しない」「世界一の罪人である」「生きる価値がない」と訴え,突然,自ら退職してしまうこともあり,稀なケースとして,犯してもいない殺人事件に対して,警察に自首するケースもあります。
②貧困妄想:根拠もなく経済的困窮状態にあると確信し,実際は,経済的問題など無いのに僅かな出費から財産がなくなったと訴える場合を指します。宮本は内因性うつ病に特異的であるとし,その基本構造は「自分が駄目になる」(微小性)「自分だけでなく家族も駄目にする」(破滅性)との訴え(例えば「一家が破産し親類縁者にも迷惑がかかる」という訴え)に現れているとしています。
③心気妄想:実際は病気ではないにもかかわらず,重篤な病気に罹患していると思い込むもので,健康上の些少の不調から本当は癌では無いのに癌だと思い込んでいる場合を指します。「どこにもない病気に罹ってしまった」と訴え,ドクターショッピングをして器質的要因を否定されても納得がいかないケースが見受けられます。

その他,(妄想性障害との鑑別は必要ですが)アルコール依存や糖尿病を伴う場合は「恋人や妻が浮気をしている」といった嫉妬妄想を訴えるケースがあります。これらの気分障害に認めやすい他の妄想症状については,いずれ触れたいと思います。


記事後半へ続く(クリックしてください)
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by jotoyasuragi | 2010-03-23 10:47 | 心理教育シリーズ
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大うつ病性障害の診断について2の続き>


⑧思考力や集中力の減退または決断困難・思考(思路)/ 制止・抑制:内的制止;思考・認知面の障害

尋ねるポイント
「以前と比較して頭の回転が遅くなったように感じませんか?」
「なかなか物事に集中できなくなっているということがありますか?」
「普段より頭が働かず,考えが遅くなったり,考えがまとまらなくなったりしていますか?」
「普段なら問題なく決められることが, くよくよと思い悩み,なかなか決められなくなっていますか?」
「新聞など,ただ字面を追っているだけで,内容が理解できないことはないですか?」

うつ病になると思考力や集中力が低下し,着想も乏しく,あれこれ考えては,堂々巡りし,迷って決められず,理解力の低下や記銘力障害も伴うことによって,仕事や勉学が進まなくなります。さらには判断力や決断力も鈍り,これらが著名であれば,診断や症状評価が困難になる場合もありますので,周囲からの客観的な情報が得られることが望ましいと考えます。うつ病においては,一般的な症状でありながら意外に気づきにくいのは「頭の働きの低下」であり,以前より仕事の能率が悪く,判断に時間がかかり,今までにないミスが多くなった結果,責任感の強い人ほど病気からくるものとは思いもよらず,勘違いして自分を責めてしまいます。そして,ぎりぎりまで元気なふりをして,突然,自殺を考えてしまうわけです。従って,仕事量が変わらないのに残業が増えてきたら,まず,うつ状態を考えなくてはいけませんし,残業が多いから仕事量が増えて,うつ病になったのではなく,うつ病になったから作業効率が低下して残業が多くなったという発想が労働者を扱う管理者や企業側には必要なのです。高齢者であれば主に注意集中や判断,思考,記憶の低下を自覚するので「最近,忘れっぽく,自分がボケてきたな?」と訴えた結果,実際に周囲が認知症の様(仮性認知症)に捉え,一般科医での受診でうつ病が認知症と間違えられることもあります。福田正人先生らの研究グループによる光トポグラフィー検査(近赤外線スペクトロスコピィ:NIRS)に代表される近年の脳機能画像研究からは,うつ病における前頭葉皮質の賦活反応性の低下(男性と比較すると女性や壮年で低下が目立つ)が認められるとの報告が注目されており,うつ病において脳血流や脳代謝が,特に前頭葉で低下していることがわかってきています。

<うつ病の認知機能低下に関する主な特徴>
①集中困難
②否定的な考え
③記憶力低下
④認知力低下(Widlocher,1982)
⑤自殺念慮
⑥妄想的思考
⑦過剰な反すう
⑧問題解決能低下(Harley et al,2006)
⑨歪んだ自己概念
⑩精神運動遅延
⑪視空間学習能力・記憶力,実行(遂行)機能,注意力の低下(Porter et al,2003)
⑫反射欠如
⑬理解力低下
⑭悲観的認識
⑮間違った意思決定

橋本謙二,Ian Hindmaach,笠井清登:うつ病・不安障害治療とシグマ受容体;臨床精神薬理Vol.11,1407-1417,No.7 Jul.2008,星和書店より掲載・追加

⑨死についての反復思考:自殺念慮,自殺企図;認知・思考面の障害

尋ねるポイント
いきなり「死にたいですか?」という表現で直截に尋ねるのではなく,以下の様に間接的な表現での質問から始めることが推奨されます。

「朝,目が覚めなければ,どんなに楽かなと思いますか?」 
「ぽっと消えてなくなりたいと思いますか?」
「生きていても仕方がないと思うことがありますか?」
「事故や病気であの世へ行ったらいいと考えますか?」
「気分がひどく落ち込んで,死について何度も考えるようになっていますか?」

 うつ病のときは,気持ちが沈みこんで辛くてたまらなくなり,「死んだほうがましだ」と考えるようになった結果,自分の気持ちを抑える力が弱くなっているので,思いもよらない思い切った行動に出る可能性が高くなります。自殺対策がうつ病臨床において最重要課題のひとつであることは確かですが,自殺念慮を他と同様の精神病理学的症状と並列するには,いささか無理があり,診断学的特異性は乏しいと一部の気分障害の専門家や研究者達は考えています。うつ病では,(罪業感と同様に)他の抑うつ症状との関連性は乏しく,周囲も本人も理解困難な「原発性自殺念慮」と抑うつ気分や制止,罪業感,悲観的思考などの症状群から二次的に発生した「内因性の基礎を持つ体験反応」(endogen unterbaute Erlebnisreaktion)として解釈が可能な自殺念慮の二つに分けられます。臨床的には,これらの鑑別が重要で,前者であれば,速やかに入院を検討する必要があります。後者の場合は,差し迫った訴えに限らず,例えば「逃げてしまいたい」「全てを投げ出したい」「消えてしまいたい」といった軽いものまでを広義の自殺念慮として認識できるため,治療開始の際,自殺抑止を契約する上でも有効です。一般には自殺の危険性は,特に焦燥感が強い発病初期と精神運動制止が軽減する回復途上期に多い(むしろ単極性より気分変動の幅が大きい双極性障害の場合の方が多い)とされていますが,不安・焦燥優位型の現代型うつ病では,強いメランコリアを示す(ホメオスタティックな安定性が一時期にみられる)極期も含めた全経過中にみられる可能性も留意しておく必要があります。実は,うつ病患者は,決して「死にたい」と思っているわけではなくて,うつ症状の苦痛から一刻も早く逃れたいという困惑や,生きていることが周囲に迷惑を掛けているという罪責感,さらには「自分は生きている価値がない」という無価値感が背景にあることを十分に理解しておく必要があります。
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参考文献・資料
神庭 重信・黒木俊秀(編):「現代うつ病の臨床 その多様な病態と自在な対処法」創元社2009年
濱田 秀伯:症候論5うつ状態 臨床的側面「精神医学対話」弘文堂2008年
坂元 薫:第1部 総論 / 第4章 症候学「気分障害」 医学書院 2008年
内海 健「うつ病の心理 失われた悲しみの場に」東京:誠信書房;2008年
内海 健「うつ病新時代-双極 II 型障害という病」東京:勉誠出版;2006年
阿部隆明:精神病像をともなう気分障害:妄想性うつ病を中心に.臨床精神医学 29(8):961-966,2000年
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by jotoyasuragi | 2010-03-23 10:39 | 心理教育シリーズ
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大うつ病性障害の診断について1~中核症状の捉え方~DSM-Ⅳ-TR:大うつ病エピソード(Major Dpressive Disorder:以下MDD)の診断基準の使用法~(米国精神医学会)

はじめに
 欧米人に比べ,私たち日本人は自分の気持ちを人にストレートに表すべきでないという姿勢や国民性が伺われ,特に一般科医に対しては身体のことのみを述べることがエチケットだと思っていることが多く,「心の動きに敏感に反応し,それを言葉で表現するのが苦手なタイプ」であるアレキシチミアという性格で心身症になりやすいタイプが多いといわれています。Wazaらの報告(1999年)では,日本人のうつ病患者では欧米人と比較して,腹痛や頭痛,頸部痛などの痛みを訴えることが多いと指摘しており,大うつ病の診断基準を十分に満たす患者より,身体症状が前面にみられる(従来の仮面うつ病)タイプの受診が比較的多いと考えます。いずれにしても,初診のみならず,日常診療における再診患者の中でも,いつもと何か様子が違うように見えたことはないか?常にモニタリングしていく必要があり,時折,身体症状以外のうつ病症状について主治医の方から尋ねてみることが臨床上,大切です。

自発的なうつ状態に関する訴えがなくても,以下のような場合は疑う必要があります。
1)不眠,食欲低下などを含めた多彩な症状の訴えがある場合
2)「何となくだるい,痛い,ふらつく」など,捉えどころのない曖昧な症状がある場合
3)身体所見や検査結果に比べて,患者さんの訴えが強い場合
4)すでに色々な検査をしても異常がなく,しかも症状が長く持続している場合
5)「この症状さえとれたら,元気でやれそうな気がする」と訴える場合
6)調子が悪くても,「休むことはできない」という場合

以上が伺われる場合に,以下の現行診断基準(DSM-Ⅳ-TR)を適用させます。
その前にまず,(Vol.6 と7を参考に)軽躁病・躁病エピソードの除外を行います。
その上で,以下の中核症状①と②を尋ねますが,下記2項目のうち1つ以上に該当し,「ほとんど1日中,ほとんど毎日あり,2週間以上にわたっている」ことが必要となります。

①抑うつ気分:感情面の障害;薬効性は比較的得られやすい

尋ねるポイント
「気持ちが沈み込んだり,滅入ったり,憂うつになったりすることがありますか?」
「物悲しくなったり,淋しくなったり,落ち込んだりすることがありますか?」
「朝起きた気分はいかがですか?」
「気分が鬱陶しくはないですか?」

うつ病の患者さんの多くは,気持ちが沈み込んで憂うつになっていますが,「憂うつ」の意味するところは各個人でかなり異なっているため,うつ病診断における重みづけに関しては診察する医師の臨床的力量や経験が問われます。抑うつ症状全般に認めるものですが,うつ病初期に目立つ「朝が特に憂鬱が強い」という日内変動や, 苛々や不快な感じがするという気分の鬱陶しさを訴えることがあるとわかりやすいでしょう。うつ病患者の場合,この日内変動が,平日だけでなく,休日にも認められることが見分けるポイントとなります。勿論,逆のパターンを示すうつ病や重症化すると不明瞭になるか消失する患者もみられます。しかし,実際には「表現のしようがない」「言いがたい気分」と述べるか,気持ちを表立って口にしない傾向が強い場合も多く,患者の訴え以外に初診の入室時に以下の表現症状を感じ取り,評価する必要があります。

①泣き出しそうな印象
②微笑がなく,愛想笑いすらない物悲しい非哀感
③覇気がなく,憔悴しきった表情・雰囲気
④苦悶に満ちた表情
⑤口数や言葉数が少なくなり,生気のない小声での話し方
⑥表情の乏しさや暗さ,硬さ
⑦ うつろな視線や悪い姿勢


加えて,身体に局在する憂鬱として身体の痛みや「身体が重い」「頭が重苦しい」といった倦怠感・違和感などの身体的感情(例:頭部,胃部や胸部に限局した不快で重苦しい圧迫感)を伴う抑うつ気分(身体的不調と精神的抑うつが同時に存在)を主に訴えることもあります。ひとりでに浮かんでくる漠然とした身体の不調や重苦しさとして感じられ,ほとんど周囲の出来事の影響を受けません。これは,ドイツの精神病理学者Kurt Schneiderが(従来の内因性うつ病の後継概念に相当する下位分類としてDSM-IV-TRによるメランコリー型の特徴の判定基準が該当する)内因性うつ病の重要な診断標識として位置づけ,表現した「生気的悲哀(抑うつ)(vital Traurigkeit)」といって「通常の悲哀とは異なる身体に局在する生命的感情:生気感情の障害」を指します。

②興味または喜びの喪失:意欲・行動面の障害


尋ねるポイント
「仕事や趣味など,これまで普段楽しみにしていることに興味を感じられなくなっていますか?」
「色々な事に関心や喜びを持てますか?」
「今まで好きだったことを,今でも同じように楽しくできていますか?」

何をしても面白くないし,何かをしようという気が起こらなく,親友や恋人・家族でさえも,
会うのも鬱陶しいし,天気が良くても外出するのも面倒に感じ,億劫な状態をさします。次第に趣味や習慣など個人特有の好きだったことにも熱中できなくなり,向き合えなくなる結果,社会的・性的な関心や欲求が著しく低下し,自分の世界に引きこもることになります。仮に本人からの訴えがなくても,一般的な女性であれば,服装や化粧,髪型,身だしなみに対して急に興味がなくなることや,急にずぼらになった様に客観的に観察できることからも伺えます。この症状は,うつ病の完成型の症状であり,いきなり,このような症状が出現するわけではありません。ひどい場合は,生気障害である抑うつ気分(上記①)が強くなると何ごとにも感情そのものが動かなくなるので,「悲哀さえ感じない感情喪失状態」となります。かつて,Schulte Wは「悲しめない」ことをうつ病の症状として重視しましたが,「喜びも悲しみもなく,全てが親しみのない無縁に感じられ,気分が全面的に沈下しているのではなく,喜怒哀楽に代表される気分のベクトルが全面的に遮断された状態」である「悲哀不能(Nicht-traurig-sein-konnen)」という概念を見出し,内因性うつ病として診断的価値が高い標識としました。この悲哀不能による感情喪失感は,場合によっては,周囲のものが生き生きと感じられない離人症状に接続することが考えられます。これらは,米国精神医学では,「興味・喜びの喪失」を意味するアンヘドニア(anhedonia)という術語によって置き換えられています。最も重要なことは,生産的な活動を要請される現代人にとって,たとえ,他のうつ症状が改善されても,本症状が回復しないことには真の社会復帰への参入は困難になるという現実です。これには以下の2つの要素が観察されます。
① 外見から分かる客観的な動作面の抑制
②「億劫で何をしても面白くない」「長続きしない」という心理的主観の抑制(特に薬効性が低いとされます)


参考文献・資料
坂元 薫:第1部 総論 / 第4章 症候学「気分障害」 医学書院 2008年
濱田 秀伯:症候論5うつ状態 臨床的側面「精神医学対話」弘文堂2008年
内海 健「うつ病新時代-双極 II 型障害という病」東京:勉誠出版;2006年
内海 健「うつ病の心理 失われた悲しみの場に」東京:誠信書房;2008年
神庭 重信・黒木俊秀(編):「現代うつ病の臨床 その多様な病態と自在な対処法」創元社2009年
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by jotoyasuragi | 2010-03-12 08:49 | 心理教育シリーズ

月経前不快気分障害1

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月経前不快気分障害(Premenstrual dysphoric disorder, 以下PMDD)

疾患概念

PMDDは月経前症候群(Premenstrual Syndrome:PMS)の中でも精神症状が著しい群に該当し,DSM-III-Rでは「黄体期後期不機嫌障害」として登場しました。DSM-IV-TR以降では「特定不能のうつ病性障害」の一類型としてPMDDにまとめられ,ICD-10では「他の特定の気分障害」に該当します。

病態
Bringham and Women’s病院(BWH)Connors女性健康ジェンダー生物学部長のJil M.
Goldstein教授らは,女性と男性の脳ではストレスの処理の仕方が異なっており,その結果,疾病の経過も同等ではないことを報告しました。彼らは,健康な男女を対象に機能的MRI(fMRI)を用いて,ストレス刺激の強い状態での脳活動を観察し,女性には,月経周期の初期と排卵期の2回fMRI検査を行い,男性のデータと比較検討を行いました。その結果,ストレス応答における脳活動は,月経周期の初期には男女差がなく,むしろ,同じ女性でも排卵期にはストレス応答の脳活動が男性より強いという結果が得られたのです。同教授は「女性には,脳内のストレス応答を調節する女性特有のホルモン的能力が備わっており,最大の違いは,脳内の自律的覚醒応答を制御する脳領域に見られたことから,男女の脳の基本的な生理学的相違と脳の複数領域における機能の男女差を理解する鍵となる」と述べています(Journal of Neuroscience:2010;30:431-438)。

近年,セロトニン神経系伝達に関連する遺伝情報が書き込まれた遺伝子型であり,染色体番号17に存在するセロトニントランスポーター遺伝子(5HTTLPR:S型とL型に分かれる)の存在が明らかになり,ヴェルツバーグ大学精神医学部のPeter Lesch(1996年)が「S型がセロトニン分泌に関与する」と発表しました。この遺伝子型の割合は人種・民族によって異なり,不安遺伝子とも呼ばれ,日本人はこの割合が高いとされます。また,うつ病の発症において,L型よりS 型の方が多いと報告されています。Jovanovicらは,大うつ病患者の女性は男性と比較してセロトニントランスポーターの低下が顕著であり,さらに健常女性は男性よりセロトニン合成が52%も多く,セロトニン受容体も多いことが報告され,セロトニン系の不均衡が女性の大うつ病に関与することを示唆しており,これらのことが女性にセロトニン系抗うつ薬が有益である結果に繋がるのかもしれないと報告しています(Jovanovic H,Lundberg J,Karlsson P,et al.Gender differences in the 5-HT1A receptor and serotonin transporter in the human brain:a PET study.Eur Neuropsychopharmacol 2007;17:S186)。その一例を紹介しますと,例えば,性別における抗うつ薬の寛解有効率について,各抗うつ薬(Sertraline, Fluvoxamine, Paroxetine, Milnacipran, Maprotiline:いずれも国内使用薬)それぞれの寛解有効率を男性と女性で比較した場合は,Sertralineは女性で有意に(男性55.6%対女性95.0%(P=0.0043))寛解有効率が高かったという報告があります(Morishita S,KinoshitaT,Arita S.Gender differences in a response to antidepressants.Major Depression in Women.(eds),Nova Science Publisher,NY,2008)。

セロトニン神経系や抗ドパミン系作用を有するエストロゲンやGABA(ギャバ:ガンマ-アミノ酪酸)神経系への作用を有するプロゲスチンの関与は明らかではありませんが,中でもエストロゲンとセロトニンの相互作用は卵胞期と黄体期のSSRIの効果発現の相違にも論が及んでいるものの,その関係は極めて複雑であり,決定的なエビデンスはありません。また,排卵月経周期に付随して起こる性ホルモンの減少による内分泌消退性症候群がそのまま成因となって気分障害を発症するという証拠もまだ確認されていません。少なくともGABA・セロトニン・ドパミンの動態に起因し,抗不安薬・抗うつ薬・抗精神病薬の薬理作用と密接に関係すると考えるPMDDは気分障害関連の障害の一つではありますが,その多くは女性ホルモンの分泌異常に由来した排卵月経周期に付随して起こる性ステロイド値の変化を引き金にした身体精神疾患であることから,内因性のうつ病とは区別すべきという意見もあります。以上よりPMDDは性ホルモンと中枢神経系の相互作用が複雑に関連した結果,発現するものと考えられています。

Landenら(2006年)はPMDDを性ステロイドホルモンの影響から非定型うつ病を呈した病態と捉えたことを報告していますが,心理社会的危機と同様にPMDDに代表される内分泌的な危機は生物学的成因論だけに組み入れられるのではなく,気分障害の発症状況や経過に影響を与える因子として大局的に捉えられるべきであろうと考えます。むしろ気分障害がベースにあって排卵期に症状が増悪する病態であって,精神症状が月経周期を通じて存在しており,周期内の症状の軽減がない場合や症状が周期性を持つとしても,特に重い精神症状がみられるならば,即座に月経周期に関連しない気分障害を検討する必要があると思われます。

疫学
DSM-IV基準を用いたCohen やWittchen (いずれも2002年)らは,PMDDは特に30代の成熟女性に多いが,有病率は年齢層によらず,5.8~6.4% と一定していると報告しており,PMDDの女性の大うつ病の生涯罹患率は45~70%に上がるというAngstらの報告もあります。

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by jotoyasuragi | 2010-03-08 10:30 | 心理教育シリーズ

月経前不快気分障害2

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月経前不快気分障害1の続き>

PMDDの診断(DSM-IV-TR の研究用基準案)
A.過去1年の間の月経周期のほとんどにおいて,以下の症状の5つ(またはそれ以上)が黄体期の最後の週の大半の時間に存在し,卵胞期の開始後2,3日以内に消失し始め,月経後1週間は存在しなかった。(1)(2)(3)又は(4)のいずれかの症状は少なくとも1つ存在する。

(1)著しい抑うつ気分,絶望感,自己卑下の観念
(2)著しい不安,緊張,“緊張が高まっている”とか“いらだっている”という感情
(3)著しい情緒不安定性(例:突然,悲しくなる又は涙もろくなるという感じ,又は拒絶に対する敏感さの増大)
(4)持続的で著しい怒り,いらだたしさ,又は対人関係の摩擦の増大

(5)日常の活動に対する興味の減退(例:仕事,学校,友人,趣味)
(6)集中困難の自覚
(7)倦怠感,易疲労性,又は気力の著しい欠如
(8)食欲の著名な変化,過食,または特定の食物への渇望
(9)過眠または不眠
(10)圧倒される,又は制御不能という自覚
(11)他の身体症状,例えば,乳房の圧痛又は腫脹,頭痛,関係痛又は筋肉痛,“膨らんでいる”感覚,体重増加

注:月経のある女性では,黄体期は排卵と月経開始の間の時期に対応し,卵胞期は月経とともに始まる。月経のない女性では,黄体期と卵胞期の時期決定には,循環血中ホルモンの測定が必要であろう。
B.この障害は,仕事又は学校,又は通常の社会的活動や他者との人間関係を著しく妨げる(例:社会的活動の回避,仕事又は学校での生産性及び効率の低下)。
C.この障害は,大うつ病性障害,パニック障害,気分変調性障害,又はパーソナリティ障害のような,他の障害の症状の単なる悪化ではない(ただし,これらの障害のどれに重なってもよい)
D.基準A,B,及びCは,症状のある性周期の少なくとも連続2回について,前方視的に行われる毎日の評定により確認される(診断は,この確認に先立ち,暫定的に下されてもよい)。                     
(「DSM-IV-TR精神疾患の診断・統計マニュアル新訂版」,医学書院,2004年から転載)

障害度
軽微で短期間である反面,罹病期間は累計すると長期(平均400回の月経周期)に及ぶ
ため,未治療のPMDDは,二次的・三次的な機能障害を与えるケースが考えられます。

鑑別疾患
身体的要因として子宮内膜症,甲状腺疾患,SLE,繊維性のう胞性乳房,栄養評価としてカフェイン,塩分摂取などが挙げられます。そのため,経口避妊薬や性腺ホルモンに影響を与える婦人科的薬剤の使用歴をチェックする必要があります。

危険因子
社会心理学的因子,産後うつ病や経口避妊薬による気分変動の既往歴などが挙げられます。

治療
薬物療法として,Steinerら(2006年)によるエキスパート・ガイドラインでは, Sertraline(ジェイゾロフト),Fluvoxamine(デプロメール / ルボックス), Paroxetine(パキシル)(特に前2者が月経への影響が少なく,食欲を抑制する方向に働くことから有効と考えます), FluoxetineやCitalopram(共に国内未発売)などが推奨されますが,主にSSRIによるコントロール研究によって,通常量による有効性が確認されており,月経前の黄体期2週間前から投与するという間歇投与が持続投与による効果と同程度であることが示されています。その他,不安や不眠に対してBZP系薬剤(Alprazolam:コンスタン / ソラナックス)を頓服薬として使用し,体液貯留には利尿剤の短期使用,その他の身体症状には漢方(温経湯:後山ら;2002年)が有効とされます。それ以上に本人と周囲に対して疾病の存在と認識を持たせ,医学的心理教育を行うことが患者を最大限に援助することに繋がると考えます。また,精神症状への影響も無視できないことから,黄体期~卵胞期に起こりやすい片頭痛に対する治療も,併せて行う必要があります(Jクリニックでは,両者の治療も含めた統合的な治療を行っています)。

上記参考文献以外の参考資料
岡野禎治:第3部 臨床上の諸問題 / 第24章 ライフサイクル II 女性のライフサイクルからみた気分障害;気分障害 医学書院 2008年
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by jotoyasuragi | 2010-03-08 10:14 | 心理教育シリーズ
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現行の診断基準における「曖昧な軽躁の定義」についての論争

Vieta and Phillips(2007年)は「混合性症状が十分に特徴づけられておらず,双極性エピソードがあまりにも狭義に定義され,軽躁・躁病エピソードの持続期間の診断基準として必要とされる4日間や1週間という期間は長すぎるのではないか?」と批判しており,昨年,亡くなられたイタリアのBenazzi(2007年)も,DSM-IVの診断基準に批判的であり,軽躁エピソードへの臨床的感度をあげるために,4日から2~3日への持続期間の短縮を提唱していました。さらに内海は著書(2006年)の中で,そもそもBD IIは定型的な現れ方をせず,治療者においても把握しづらいため,患者自身も病識が持ちにくいだけでなく,自分がどういう状態なのか?その早い気分の波の中から自己を切り離して対象化し,気分の波を客観視することが困難であるとし,特に自我親和的な軽躁病像の期間については,病歴の聴取において4日以上というケースは非常に稀であると述べています。

また,ISBD(International Society for Bipolar Disorders:国際双極性障害学会) Diagnostic Guidelines Task Force は,現行診断基準であるICD-10及びDSM-IV について,最も重要な提案は軽躁病の基準に関するものであり,症状持続期間を4日から2日以上に変更し,混合型軽躁病(うつ症状を伴う軽躁病)の存在を含め,抗うつ薬や他の物質によって引き起こされた可能性のある軽躁病エピソードを含めるとしています。加えて,ISBDはBD II 型の基準についても変更を提案しており,混合性エピソードの除外を混合性躁病エピソード(mixed manic episode)として明確化する必要があり,また軽躁症状では環境によっては,障害が生じない場合があるため,臨床的に重大な苦痛や障害が生じるという(重症度の)要件はうつ症状に適用すべきでないとしています。更に特定不能の双極性障害(BD NOS:Not Otherwise Specified) とBipolar Spectrum の区別をするために双極性障害の前駆状態になる生物学的指標ともいえるPotential bipolar(bipolarity)としてBDや他の精神疾患,自殺,アルコール・薬物依存を伴う家族歴,非定型・季節性,精神症状の存在,若年発症,頻回のエピソードなどを提案しています。これは, Ghaemiの提唱する身体因性に依拠した双極スペクトラム障害(後記)に近い概念を導入するものと考えます。


正常な喜びと軽躁状態の鑑別指針

一般科医(プライマリ-ケア医)のレベルであれば以下の問診を行います。

気分障害であれば,常に双極性障害を疑うことを優先し,先に軽躁状態の既往を除外します。 
1.「特別な出来事がないときでも,気分の波があるほうですか?」
2.「以前に今回とは反対に,すごく元気だった時期はありませんか?」
3.「普段を100%として過去に100%を越えていた時期がありましたか?」
以上の様な表現で,さりげなく,患者が本来,気分的に浮き沈みの激しいタイプでなかったか?を確認します。該当すれば,更に以下の2点について問診します。

4.「ほとんど眠らなくても,気分が爽快でエネルギーに満ちているようなことはなかったか」
あるいは「過去に,普段よりも少ない(3時間程度の)睡眠でも元気だったことがありますか」(高揚気分,自尊心の肥大・誇大と睡眠要求の減少)
5.「運転中に速度を上げて高速運転し,危険を冒しそうになったことがありますか」
あるいは「お金の使い方がとても荒いことがありましたか」(まずい結果になる可能性が高い快楽的活動に熱中すること:行動化・脱抑制)

以上は,可能であれば,家族や知人にも確認することが必要です。もし,全てに該当するようであれば,専門医へ紹介することが望ましいと考えます。

仮に上記のような軽躁病エピソードがなく,大うつ病エピソードのみを認めた場合でも「以前に今回と同じような状態になったことはありませんか?」と尋ね,反復性のうつ病をチェックします。このケースでは,治療抵抗性の難治性うつ病や双極スペクトラムの可能性も否定できませんので,社会生活への再適応,再発予防(服薬遵守,心理教育)のアプローチが必要になり,専門機関との連携・紹介が重要になってきます。


精神科医であれば,軽躁への感度や気質への感性を磨いた上で,以下の問診を行います。

「軽躁への感度を上げる」ためには,持続期間にこだわらず,除外項目,重症度などの気分規定性を解除し,思考や行動を重視し,早い波,不安定な波,それとなく紛れ込む波(例えば,生活史との混交や気分以外の現れ方,本人の気がつかない波,本人の built inなど )を把握します。また,初診の問診時に過去の生活歴の中で,中学~高校時代より自覚している好不調の波(躁鬱体質)の有無や,相手に接近して,融和した結果,いじめに遭うことが多くなかったか?を聴取し,その後のMood swing の有無を尋ねることも重要です。

「気質への感性を磨く」ためには,まず,過去のエピソードや生活史から気質を同定し,家族的体質・遺伝歴を尋ねることが重要です。個々の特性ではなく,その背後にあって,それらの項目を色づけているものを探すこと。環界と共振する原理ゆえに病理性を見出すのは困難でで,気分障害特に双極性障害の患者は同調性が強いことを念頭に置きながら,馴染みの無い状況に,どう同調しようかと工夫し,その態度を決定する為に観察的行動をしながら接近してくる瞬間を見逃さずに捉えることが大切です。特に主治医から情緒的なコミュニケーションを投げかけてみた後の患者の態度などが重要な情報となります。主治医が一生懸命に治療すればするほど患者は,より同調しフィードバックしてくることが多くなるわけです。
(この臨床的視点は,鑑別が困難とされる境界性パーソナリティ障害と決定的に違う大きなポイントになります。この両者の鑑別については,いずれ触れたいと思います)。

問診のポイントとして,自覚していない軽躁時期と対比して「うつです!」「非常に辛い!」と言いながら,多訴で幾つもの症状を強い感情を込めて,治療者がたじたじとなるような訴え方をする場合には,「普通だった」と捉えている軽躁の時期からの落差に困惑して「急に調子が悪くなり,不安定なのですね?」と尋ねた上で,双極性の要素が潜んでいる可能性を考え,過去の不適応的な対処行動や随伴症状(不安障害等)を確認します。波乱万丈に満ちた人生….特に転々とした職歴や転居歴,複数の婚姻歴,予測不可能な行動化やエピソード(過剰な飲酒,手首切創などの自傷行為,過食・嘔吐,過量服薬,薬物依存,放浪癖,浪費・買い物やギャンブル依存による借金,実業家であれば,株投資や店舗拡大などによる自己破産,派手な服装やライフスタイルの変化,性的乱脈による偶発的な妊娠・中絶など)を丁寧に聴取します。

家族歴は(気分障害などの)疾病の有無だけでなく,職業歴を聞くことが重要です。単極性うつ病の場合は,公務員や会社員などの「硬い」職業が多いですが,双極性の場合は,本人だけでなく,家族も(自分のペースで仕事が可能な)職人的仕事や芸術・クリエイティブ系の仕事をしているケースが多く,一般的な定職がなく,転職や離婚歴が多く,ライフスタイルも多彩で創造的・発揚的な状況が多いため,それを「淡々と訊く」ことが重要です。

その上で現行診断基準であるDSM-IVの軽躁病エピソードを適切に使用することが望ましいと考えます。しかし,同診断基準にある「軽躁エピソードの場合は,気分の障害や機能の変化は,他者から観察可能であり,症状のないときにはその人物に特徴的でない明確な機能変化が随伴する」という記載にあるように,患者にとって甘美に満ちた目眩く軽躁病期間は病的として捉えることは少なく,それを渇望するあまり,かえって否認・否定し,情報が得られないことがあるので,必ず家族・知人や周囲からの客観的な情報が必要となります。孤高の人生で周囲からの客観的な情報が皆無に近く,軽躁病エピソードを本人が否定・否認している場合は,Hirshfeld(2000年)による気分障害質問表MDQ(Mood Disorder Questionnarire)を使用しても良いか?と思われますが,あくまでも参考程度に留め,最終的には,精神科医が診察場面で軽躁病エピソードを的確に捉えることが理想です。

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by jotoyasuragi | 2010-02-15 15:18 | 心理教育シリーズ
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軽躁病エピソードの捉え方1の続き>

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しかし,診断学的発展途上にある研究目的のDSM-IVも色々と使えないケースもあります。2012年にはDSM-Vが改訂される予定と聞いておりますが……………
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そこで,軽躁病エピソードの問診法としては以下の三点が重要ポイントです。

1. 4日間以上にわたって睡眠要求が減少していたか?
2.高揚した気分だけでなく,運動(行動)過多が観察されていたか?
3.その状態が反復性のものか?
通常,4日以上にわたる喜びの反応が起こることは生涯に1~2回であるために,3回以上の反復がみられれば軽躁状態の可能性が高くなることになります。


それでも軽躁状態の既往がなかった場合は, Potential bipolar(bipolarity)を初診時に確認します。気分障害を多く診る精神科医であれば,以下のGhaemiの双極スペクトラム障害(Bipolar Spectrum Disorder)の診断基準を厳格に使用します。

A.少なくとも1回以上の大うつ病エピソード
B.自然発生的な躁・軽躁病相はこれまでにない(つまり現行診断基準を満たさない病相)
C.以下のうちいずれか1項目とDの少なくとも2項目以上(あるいは以下の2項目とDの1項目以上)があてはまる
1.第一度親族(親子,兄弟)における双極性障害の家族歴:最も強いリスクファクター
2.抗うつ薬によって惹起される躁あるいは軽躁の既往
D.Cの項目がなければ以下の9項目のうち6項目があてはまること
1.発揚性人格(抑うつ状態でない基準線においてマニー型 / 執着性格も含める):気質
2.反復性大うつ病エピソード(>3回以上):経過像
3.短い大うつ病エピソード(平均3ヶ月未満):経過像
4.非定型うつ症状(DSM-IV:過眠,過食,鉛様の麻痺・脱力感の3点を重視):状態像
5.精神病性(精神病症状を伴う)大うつ病エピソード:状態像
6.大うつ病エピソードの若年発症(25 歳以下):経過像
7.産後うつ病:誘発イベント
8.抗うつ薬の効果減弱(wear‐off:急性効果(+)予防効果(-)):治療反応性
9. 3種類以上の抗うつ薬治療への非反応:治療反応性

備考:他のPotential bipolarの予測指標として,広義の混合状態の出現,遷延化したうつ病エピソード,季節関連性(冬季うつ病), Comorbidity(不安障害等)などが挙げられます。
尚, Ghaemiはあまり混合状態そのものを当該診断の中で重要視していません。
また,混合状態はBD IIの現行診断基準では除外項目となり,抗うつ薬使用時のみに認める軽躁状態はBD I及びBD II両診断基準の除外項目になっていますが,これらの臨床的問題に関しては,後日,述べていきます。

<参考文献・その他>
1)Yatham LN,Kennedy SH,Schaffer A,et al:Canadian Network for Mood and Anxiety Treatments(CANMAT)and International Society for Bipolar Disorders (ISBD) collaborative update of CANMAT guidelines for the manegement of patients with bipolar disorder:update 2009:Bipolar Disord 11:225-255,2009
2)Ghaemi,S.N.et al.:The bipolar Spectrum and the antidepressant view of the world.
J PsychiatrPract 7:287-297,2001 / Ghaemi SN, Mood Disorders,2nd edition,2008
3)Ghaemi SN.Mood Disorders:A Practical Guide(2003),2nd edition.Philadelphia:Lippincott Williams&Wilkins;2008
4)Angst「プリマリ・ケア医が軽躁病エピソードを確認するための質問項目」2005年
5)内海 健「うつ病新時代-双極 II 型障害という病」東京:勉誠出版;2006年
6)内海 健「うつ病の心理 失われた悲しみの場に」東京:誠信書房;2008年
7)神田橋 條治「双極性障害の診断と治療-臨床医の質問に答える-」第1回福岡精神医学研究会講演記録:臨床精神医学 34(4):471-486,2005年
8)秋山 剛「双極II 型への関わり-職場、家族への援助を含めて」:双極性障害委員会企画シンポジウム 講演 第6回日本うつ病学会総会 品川プリンスホテル;2009年

                        十全病院 / Jクリニック 岡 敬 
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by jotoyasuragi | 2010-02-15 15:13 | 心理教育シリーズ

金沢市にある医療・福祉施設です。


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