2009年 12月 22日
私の近況報告 院外地域医療活動(11~12月)
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1. 平成21年度石川県医師会うつ病早期発見・早期治療推進事業 事例検討会
11/9(月)19~21時半 加賀地区:ホテルグランティア小松エアポート2階
11/24(火)19~21時半 金沢中央地区(1):石川県医師会会館4階研修室
11/30(月)19~21時半 金沢中央地区(2):石川県医師会会館4階研修室
今回は事例検討会に使用された症例の提供と医学的資料作成の担当及びファシリテーターとしての参加となりました。本年度は非定型うつ病を伴う双極スペクトラム(Benazziの混合性うつ病或いはDSM-IV-TR では特定不能の双極性障害,狭義の双極 II 型障害に該当)の症例でしたが,本症例を選んだ理由とは?………………
2012年に改訂予定のDSM-Vでは,現行の気分障害全体の診断基準が解体され,Akiskalによる双極スペクトラムやBenazziによる混合性うつ病の概念, 更には(Ghaemiの提唱している双極スペクトラム障害の内容とほぼ一致する)Potential bipolarなどが新しく診断基準に組み込まれることが決定しているため,これらの側面を重視した気分障害の臨床が必要になってきます。これまで生物学的研究を進める為に診断一致率が比較的高い現行の操作性診断基準が一般科医にも推奨されてきたわけですが,改訂後の混乱がないように配慮するためには,双極スペクトラムの概念の導入を避けることができません。少なくとも「単極性うつ病」を診断するには初診時に軽躁病エピソードを除外することが最低限必要になりますので,これをある程度,アナウンスしていくことが重要です。一般科医の先生にとって,双極スペクトラムの導入により,うつ病治療のハードルが高くなってしまうことになるわけですが,実際の臨床場面で,現行の診断基準を満たさないが将来的に双極性障害へ発展する可能性の高い単極性うつ病ないし反復性うつ病の患者を早期に捉えて頂き,基本的には速やかに専門医に紹介し,軽症~中等症レベルの単極性うつ病であれば,しっかりと一般科医の先生にも積極的に診ていただくことが今後,必要であると考えます。その結果,誤診や治療がパターン化して,安易に抗うつ薬が投薬されてしまう危険性を防ぐことになると思います。本症例は,現行の診断基準(DSM-IV)の欠点である長期的な経過における診断移行性に触れず,客観的で横断的な病像や顕在化した症状だけに基づいて安易に単極性うつ病と診断されるのを防ぐ為に,双極スペクトラムの概念を導入し,気分安定薬を投与する重要性が理解できること, 症例の経過途中にみられる月経前不快気分障害や非定型うつ病などに見出される気分障害の様々な側面に触れながら,復職の際の対応も治療上参考になること,そして,気分障害の多様性を担っている双極 II 型障害周辺の病態を取り上げ,その臨床のエッセンスを理解して頂くことが今後,改訂されるDSM-Vに対応すべく新しい気分障害の理解を深めることに繋がるのではないか?と考え,以上から取り上げさせて頂きました。
各検討会の司会は栗津神経サナトリウム副院長の秋山典子先生,岡部病院理事長の前田義樹先生,ときわ病院院長の炭谷信行先生でいつものスムーズな進行役は流石でした!又,作成段階の委員会では,双極性障害の研究者である石川県立高松病院診療部長の武島稔先生や小山善子先生に色々と貴重な御助言を頂きました。その他関係者の皆様,大変ご苦労様でした。
2. 第73回石川県神経科精神科医会学術講演会 金沢大学医学部神経科精神科主催:特別講演1「双極 II 型障害の薬物療法」
12/3(木)19:15~19:45 金沢ニューグランドホテル5階「銀扇」
双極性障害(以下BD)は再発頻度が高く,病相が遷延化しやすい障害であるため,治療は各々の病相の改善を目的とするのではなく,再発を防止し,本来の持続的な社会的機能を取り戻すことを最終目標としなければなりません。その治療の中心となすのは 気分安定薬による薬物療法ですが,現在使用できる薬剤をもってしても,十分な治療効果が得られないことが多いのが問題となっています。SSRI や新世代抗精神病薬の登場により,気分障害の治療現場に導入されてきたことは歓迎すべきことですが,薬物自体が気分障害の遷延化や慢性化の一因となる可能性が否定できず,特に若い適齢期の女性においては催奇形性や体重増加の問題など,服薬コンプライアンスが保持できず,脱落例も多いことから,より合理的な治療の再構築が必要となります。一方,近年,操作的診断の浸透と一般科医によるうつ病治療の積極的な参加により,うつ病に対応する治療的範囲が広がったことから,BDの診断の精度を上げる必要がありますが,新薬の導入が世界的にも遅い我が国の現状では,患者が獲得可能な最新の治療情報は極めて乏しいといわざるを得ません。特に双極 II 型障害(以下 BD II)の診断においては,曖昧な対応が多く誤解を受けやすく,軽躁状態を容易に境界性パーソナリティ障害(以下 BPD )と決めつけ,我々はもう診られぬ!と切り捨てるか,安易な医学的情報提供の中,家族が見放し,治療的支援が得られなくなるケースが散見され,大変,残念に思います。こうした新たな問題を解決するだけの確固たる臨床論や病因解明が急がれ,新薬の導入や双極スペクトラムへの理解を試みずに問題は解決できないと考えます。
BD IIは,従来の気分障害類型からその色彩をやや異にしており,気分障害の多様性を担い,変幻自在・神出鬼没であり,様々な疾病へと接続することが多いため, under あるいは over-diagnosis の症例が多く,不安障害,アルコール,薬物乱用,人格障害などの comorbiditiy も多いこと,高いプラセボ反応率,難治例の多さや自然経過として寛解や軽躁・躁転が起こることが予想され,臨床研究の難しさがあります。一方,多くのランダム化対照比較試験(RCT)などのエビデンス・レベルの高い報告が知られている躁病エピソード急性期の治療や気分障害(躁病エピソード,大うつ病エピソード)の再発予防とは異なり,BD II に特化したエビデンス・レベルの高い報告が極めて少ないという現状があります。特に服薬遵守の問題に直面化した場合,急速交代型や混合状態の治療は難しく,エビデンスに近似した双極 I 型障害(以下 BD I )の治療戦略を採用しても中々適当なものが見当たらず,時に患者さんの拒否に遭い実行できないことが多いのが現状です。本疾病でのうつ病相は抑制症状が中心であり,現在の使用できる気分安定薬では予防が困難となるケースが多いため,必要以上に抗うつ薬を併用してしまう例が後を絶たないことが問題となっています。又,BD II の自殺企図・完遂率の高さも問題となっていますが,これは未だにエビデンスに基づいたBD II の診断治療が確立されておらず,治療そのものが不適切になってしまう場合が少なくないことも決して無関係ではないと考えられます。BD II の患者さんは人生の大部分をうつ病相で過ごしており,自覚症状や QOL の面からもうつ病相を中心とする治療にシフトしていくことが長期戦略的に重要です。社会的機能障害に焦点を当てた場合,軽躁症状よりうつ病相の影響が大きい為,急性期の病相安定のみならず,(特にうつ病相の防止を中心とした)再発防止や妊娠期も含めた長期服用に耐えうる薬物療法であることが治療的に重要であると思われます。
講演当日のテーマ・概要
1)BD II の疫学・経過
2)単極性うつ病と BD II との気分変動の相違点
3)CANMAT の概略
4)BD II の現行診断に対する疑義 / DSM-V の方向性
5)BD II 周辺の診断クライテリアと混合状態の概念
6)BD II における抗うつ薬の投与の是非・問題点
7)BD II と BPDとの相違・鑑別
8)BD II の薬物療法(CANMAT ガイドラインを中心に)
9)BD II の精神療法
当日は時間の関係上,上記7)と9)を除いた項目について講演を行いました。詳細につきましては,今後,長いこと休養?しておりました心理教育シリーズで再開させていきたいと思います。
十全病院・Jクリニック 岡 敬
1. 平成21年度石川県医師会うつ病早期発見・早期治療推進事業 事例検討会
11/9(月)19~21時半 加賀地区:ホテルグランティア小松エアポート2階
11/24(火)19~21時半 金沢中央地区(1):石川県医師会会館4階研修室
11/30(月)19~21時半 金沢中央地区(2):石川県医師会会館4階研修室
今回は事例検討会に使用された症例の提供と医学的資料作成の担当及びファシリテーターとしての参加となりました。本年度は非定型うつ病を伴う双極スペクトラム(Benazziの混合性うつ病或いはDSM-IV-TR では特定不能の双極性障害,狭義の双極 II 型障害に該当)の症例でしたが,本症例を選んだ理由とは?………………
2012年に改訂予定のDSM-Vでは,現行の気分障害全体の診断基準が解体され,Akiskalによる双極スペクトラムやBenazziによる混合性うつ病の概念, 更には(Ghaemiの提唱している双極スペクトラム障害の内容とほぼ一致する)Potential bipolarなどが新しく診断基準に組み込まれることが決定しているため,これらの側面を重視した気分障害の臨床が必要になってきます。これまで生物学的研究を進める為に診断一致率が比較的高い現行の操作性診断基準が一般科医にも推奨されてきたわけですが,改訂後の混乱がないように配慮するためには,双極スペクトラムの概念の導入を避けることができません。少なくとも「単極性うつ病」を診断するには初診時に軽躁病エピソードを除外することが最低限必要になりますので,これをある程度,アナウンスしていくことが重要です。一般科医の先生にとって,双極スペクトラムの導入により,うつ病治療のハードルが高くなってしまうことになるわけですが,実際の臨床場面で,現行の診断基準を満たさないが将来的に双極性障害へ発展する可能性の高い単極性うつ病ないし反復性うつ病の患者を早期に捉えて頂き,基本的には速やかに専門医に紹介し,軽症~中等症レベルの単極性うつ病であれば,しっかりと一般科医の先生にも積極的に診ていただくことが今後,必要であると考えます。その結果,誤診や治療がパターン化して,安易に抗うつ薬が投薬されてしまう危険性を防ぐことになると思います。本症例は,現行の診断基準(DSM-IV)の欠点である長期的な経過における診断移行性に触れず,客観的で横断的な病像や顕在化した症状だけに基づいて安易に単極性うつ病と診断されるのを防ぐ為に,双極スペクトラムの概念を導入し,気分安定薬を投与する重要性が理解できること, 症例の経過途中にみられる月経前不快気分障害や非定型うつ病などに見出される気分障害の様々な側面に触れながら,復職の際の対応も治療上参考になること,そして,気分障害の多様性を担っている双極 II 型障害周辺の病態を取り上げ,その臨床のエッセンスを理解して頂くことが今後,改訂されるDSM-Vに対応すべく新しい気分障害の理解を深めることに繋がるのではないか?と考え,以上から取り上げさせて頂きました。
各検討会の司会は栗津神経サナトリウム副院長の秋山典子先生,岡部病院理事長の前田義樹先生,ときわ病院院長の炭谷信行先生でいつものスムーズな進行役は流石でした!又,作成段階の委員会では,双極性障害の研究者である石川県立高松病院診療部長の武島稔先生や小山善子先生に色々と貴重な御助言を頂きました。その他関係者の皆様,大変ご苦労様でした。
2. 第73回石川県神経科精神科医会学術講演会 金沢大学医学部神経科精神科主催:特別講演1「双極 II 型障害の薬物療法」
12/3(木)19:15~19:45 金沢ニューグランドホテル5階「銀扇」
双極性障害(以下BD)は再発頻度が高く,病相が遷延化しやすい障害であるため,治療は各々の病相の改善を目的とするのではなく,再発を防止し,本来の持続的な社会的機能を取り戻すことを最終目標としなければなりません。その治療の中心となすのは 気分安定薬による薬物療法ですが,現在使用できる薬剤をもってしても,十分な治療効果が得られないことが多いのが問題となっています。SSRI や新世代抗精神病薬の登場により,気分障害の治療現場に導入されてきたことは歓迎すべきことですが,薬物自体が気分障害の遷延化や慢性化の一因となる可能性が否定できず,特に若い適齢期の女性においては催奇形性や体重増加の問題など,服薬コンプライアンスが保持できず,脱落例も多いことから,より合理的な治療の再構築が必要となります。一方,近年,操作的診断の浸透と一般科医によるうつ病治療の積極的な参加により,うつ病に対応する治療的範囲が広がったことから,BDの診断の精度を上げる必要がありますが,新薬の導入が世界的にも遅い我が国の現状では,患者が獲得可能な最新の治療情報は極めて乏しいといわざるを得ません。特に双極 II 型障害(以下 BD II)の診断においては,曖昧な対応が多く誤解を受けやすく,軽躁状態を容易に境界性パーソナリティ障害(以下 BPD )と決めつけ,我々はもう診られぬ!と切り捨てるか,安易な医学的情報提供の中,家族が見放し,治療的支援が得られなくなるケースが散見され,大変,残念に思います。こうした新たな問題を解決するだけの確固たる臨床論や病因解明が急がれ,新薬の導入や双極スペクトラムへの理解を試みずに問題は解決できないと考えます。
BD IIは,従来の気分障害類型からその色彩をやや異にしており,気分障害の多様性を担い,変幻自在・神出鬼没であり,様々な疾病へと接続することが多いため, under あるいは over-diagnosis の症例が多く,不安障害,アルコール,薬物乱用,人格障害などの comorbiditiy も多いこと,高いプラセボ反応率,難治例の多さや自然経過として寛解や軽躁・躁転が起こることが予想され,臨床研究の難しさがあります。一方,多くのランダム化対照比較試験(RCT)などのエビデンス・レベルの高い報告が知られている躁病エピソード急性期の治療や気分障害(躁病エピソード,大うつ病エピソード)の再発予防とは異なり,BD II に特化したエビデンス・レベルの高い報告が極めて少ないという現状があります。特に服薬遵守の問題に直面化した場合,急速交代型や混合状態の治療は難しく,エビデンスに近似した双極 I 型障害(以下 BD I )の治療戦略を採用しても中々適当なものが見当たらず,時に患者さんの拒否に遭い実行できないことが多いのが現状です。本疾病でのうつ病相は抑制症状が中心であり,現在の使用できる気分安定薬では予防が困難となるケースが多いため,必要以上に抗うつ薬を併用してしまう例が後を絶たないことが問題となっています。又,BD II の自殺企図・完遂率の高さも問題となっていますが,これは未だにエビデンスに基づいたBD II の診断治療が確立されておらず,治療そのものが不適切になってしまう場合が少なくないことも決して無関係ではないと考えられます。BD II の患者さんは人生の大部分をうつ病相で過ごしており,自覚症状や QOL の面からもうつ病相を中心とする治療にシフトしていくことが長期戦略的に重要です。社会的機能障害に焦点を当てた場合,軽躁症状よりうつ病相の影響が大きい為,急性期の病相安定のみならず,(特にうつ病相の防止を中心とした)再発防止や妊娠期も含めた長期服用に耐えうる薬物療法であることが治療的に重要であると思われます。
講演当日のテーマ・概要
1)BD II の疫学・経過
2)単極性うつ病と BD II との気分変動の相違点
3)CANMAT の概略
4)BD II の現行診断に対する疑義 / DSM-V の方向性
5)BD II 周辺の診断クライテリアと混合状態の概念
6)BD II における抗うつ薬の投与の是非・問題点
7)BD II と BPDとの相違・鑑別
8)BD II の薬物療法(CANMAT ガイドラインを中心に)
9)BD II の精神療法
当日は時間の関係上,上記7)と9)を除いた項目について講演を行いました。詳細につきましては,今後,長いこと休養?しておりました心理教育シリーズで再開させていきたいと思います。
十全病院・Jクリニック 岡 敬
by jotoyasuragi
| 2009-12-22 09:24
| 心理教育シリーズ