2010年 02月 12日
双極性障害全体の疫学・経過
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<双極性障害(Bipolar Disorders:以下BD)全体の疫学・経過>
発症年齢は30歳前後(うつ病は40歳代),20-40代がピークといわれ,50歳以降の発症も30%は存在します。約90%以上が26歳までに初発エピソードを持つという報告があります。生涯有病率では,米国で4~7%になり,国内では1~3%(うつ病の10~20分の1),
男女比は1対1(うつ病は1対2)となります。ちなみに気分循環障害の生涯有病率は0.4~1.0%となっています。70~80%の患者は20年以上も疾患の活動性が持続し,一度,明確な躁病相を経験すると,将来的にその85~95%が複数の病相の再発を経験するといわれています。急速交代型は双極性障害の5~15%,混合状態は14~67%が示しうるとされています。以上からWHO(世界保健機関)による疾病負担研究では,世界の医療上の障害で6番目に負担の大きい疾患としてあげられており,変形性関節症,HIV,糖尿病,喘息より障害負担が大きいとされているのです。併発・合併症(comorbidity )は60%の患者にみられ,特に40%に不安障害が併発します(パニック障害の障害併発率は21%,強迫性障害は8~13%)。アルコールや薬物依存も約30%が合併しているといわれています。Tsuang らによる35年の転帰では,予後良好は15%,予後は良好であるが再発するのは45%,部分寛解は30%,慢性化するのは10%と4つに分けています。Goldbergら(2001年)は,若年発症の大うつ病性障害はその40%以上が後に躁転すると報告していますが,Ghaemi ら(2000年)は双極性障害の56%は以前に単極性うつ病と診断されたことがあると報告し, 双極性うつ病と単極性うつ病の治療は異なるが,うつ状態で受診したときに軽躁病エピソードは見逃されることが多く,双極性うつ病の患者40%が単極性うつ病と誤診されているとし,約70%の患者が誤診を繰り返され,3分の1の患者は正しい治療に出会うまで発病から約10年,双極 II型障害に限れば約12年を要していると報告しています。
<双極 II 型障害(Bipolar II Disorder:以下BD II)の疫学・経過>
国内の双極性障害の患者は,全人口の約1%(うつ病の5分の1)前後(厳密にはBD I :
0.4~1.7%,BD II :0.5%)であるとされ,約20 万人が罹患しています。双極スペクトラム障害としてでは,国内でも3~4%, Akiskal の報告では5~7%に上がるともいわれています。米国 National Comorbidity Survey Replication(以下 NCSR:n=9282)の報告(2007年)では,BD II の生涯有病率は1.1%,12ヶ月の有病率は0.8%となっています(CANMAT)。Benazzi ら(2007年)の疫学的研究報告では,イタリア国内の生涯有病率を約5%とし,うつ症状を呈する外来患者の約50%が BD II に罹患していると報告しています。NCSR 報告では,発症時の平均年齢は20.3歳,回答者のほとんどが他のI軸障害,特に46.1%に上る不安障害の併存率(多い順から,社会不安障害>全般性不安障害>外傷後ストレス障害>パニック障害>強迫性障害>広場恐怖)を持っているとしています(CANMAT)。Akiskal らの報告では平均自殺率は19%にも上がり,その中で単極性うつ病は12%,BD I は17%,BD II は24%とし,自殺時にうつ病であった例の46%はBD II,1%がBD I,単極性うつ病が53%となっています。結果的にはBD II の自殺の完遂率は有意に高く,10~15%に及んでいると報告されています(CANMAT)。Akiskal ら(1995年)は単極性うつ病を11年間追跡すると,3.9%がBD I, 8.6%がBD II に移行し,多くは5年以内に変更されたと報告しています。また,軽躁病相の60~70%は大うつ病相の直前ないし直後に起こり,病間期の長さは年齢とともに減少する傾向にあるとし,5~15%では年間4回以上の病相をみる傾向にあり,病間期の社会的能力に問題があるのは約15%にあがるとしています。うつ病相の生活障害度においては,BD I よりBD II の方が重症度は高く,BD II は女性に有意に多く,BD I よりBD II の方が季節の影響が大きいと報告しています(CANMAT)。
参考文献:Yatham LN,Kennedy SH,Schaffer A,et al:Canadian Network for Mood and Anxiety Treatments(CANMAT)and International Society for Bipolar Disorders (ISBD) collaborative update of CANMAT guidelines for the manegement of patients with bipolar disorder:update 2009:Bipolar Disord 11:225-255,2009
十全病院 / Jクリニック 岡 敬
<双極性障害(Bipolar Disorders:以下BD)全体の疫学・経過>
発症年齢は30歳前後(うつ病は40歳代),20-40代がピークといわれ,50歳以降の発症も30%は存在します。約90%以上が26歳までに初発エピソードを持つという報告があります。生涯有病率では,米国で4~7%になり,国内では1~3%(うつ病の10~20分の1),
男女比は1対1(うつ病は1対2)となります。ちなみに気分循環障害の生涯有病率は0.4~1.0%となっています。70~80%の患者は20年以上も疾患の活動性が持続し,一度,明確な躁病相を経験すると,将来的にその85~95%が複数の病相の再発を経験するといわれています。急速交代型は双極性障害の5~15%,混合状態は14~67%が示しうるとされています。以上からWHO(世界保健機関)による疾病負担研究では,世界の医療上の障害で6番目に負担の大きい疾患としてあげられており,変形性関節症,HIV,糖尿病,喘息より障害負担が大きいとされているのです。併発・合併症(comorbidity )は60%の患者にみられ,特に40%に不安障害が併発します(パニック障害の障害併発率は21%,強迫性障害は8~13%)。アルコールや薬物依存も約30%が合併しているといわれています。Tsuang らによる35年の転帰では,予後良好は15%,予後は良好であるが再発するのは45%,部分寛解は30%,慢性化するのは10%と4つに分けています。Goldbergら(2001年)は,若年発症の大うつ病性障害はその40%以上が後に躁転すると報告していますが,Ghaemi ら(2000年)は双極性障害の56%は以前に単極性うつ病と診断されたことがあると報告し, 双極性うつ病と単極性うつ病の治療は異なるが,うつ状態で受診したときに軽躁病エピソードは見逃されることが多く,双極性うつ病の患者40%が単極性うつ病と誤診されているとし,約70%の患者が誤診を繰り返され,3分の1の患者は正しい治療に出会うまで発病から約10年,双極 II型障害に限れば約12年を要していると報告しています。
<双極 II 型障害(Bipolar II Disorder:以下BD II)の疫学・経過>
国内の双極性障害の患者は,全人口の約1%(うつ病の5分の1)前後(厳密にはBD I :
0.4~1.7%,BD II :0.5%)であるとされ,約20 万人が罹患しています。双極スペクトラム障害としてでは,国内でも3~4%, Akiskal の報告では5~7%に上がるともいわれています。米国 National Comorbidity Survey Replication(以下 NCSR:n=9282)の報告(2007年)では,BD II の生涯有病率は1.1%,12ヶ月の有病率は0.8%となっています(CANMAT)。Benazzi ら(2007年)の疫学的研究報告では,イタリア国内の生涯有病率を約5%とし,うつ症状を呈する外来患者の約50%が BD II に罹患していると報告しています。NCSR 報告では,発症時の平均年齢は20.3歳,回答者のほとんどが他のI軸障害,特に46.1%に上る不安障害の併存率(多い順から,社会不安障害>全般性不安障害>外傷後ストレス障害>パニック障害>強迫性障害>広場恐怖)を持っているとしています(CANMAT)。Akiskal らの報告では平均自殺率は19%にも上がり,その中で単極性うつ病は12%,BD I は17%,BD II は24%とし,自殺時にうつ病であった例の46%はBD II,1%がBD I,単極性うつ病が53%となっています。結果的にはBD II の自殺の完遂率は有意に高く,10~15%に及んでいると報告されています(CANMAT)。Akiskal ら(1995年)は単極性うつ病を11年間追跡すると,3.9%がBD I, 8.6%がBD II に移行し,多くは5年以内に変更されたと報告しています。また,軽躁病相の60~70%は大うつ病相の直前ないし直後に起こり,病間期の長さは年齢とともに減少する傾向にあるとし,5~15%では年間4回以上の病相をみる傾向にあり,病間期の社会的能力に問題があるのは約15%にあがるとしています。うつ病相の生活障害度においては,BD I よりBD II の方が重症度は高く,BD II は女性に有意に多く,BD I よりBD II の方が季節の影響が大きいと報告しています(CANMAT)。
参考文献:Yatham LN,Kennedy SH,Schaffer A,et al:Canadian Network for Mood and Anxiety Treatments(CANMAT)and International Society for Bipolar Disorders (ISBD) collaborative update of CANMAT guidelines for the manegement of patients with bipolar disorder:update 2009:Bipolar Disord 11:225-255,2009
十全病院 / Jクリニック 岡 敬
by jotoyasuragi
| 2010-02-12 10:32
| 心理教育シリーズ