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「ラジオ健康百科~勤労者を取り巻くうつ病および自殺対策」(2015/8/6収録)

「ラジオ健康百科~勤労者を取り巻くうつ病および自殺対策」(2015/8/6収録)
拡大版 げつきんワイド おいね☆どいね「ラジオ健康百科」
オンエア:2015年8月11日(火)13時30分~

Q1:精神科医として、勤労者を取り巻く、現代の厳しい職場環境をどう感じていますか?

A:リーマンショック以降、日本の職場環境は激変しました。多くのリストラ施策を経て、かつて社員が行っていた単純定型業務は若年者を中心とした非正規社員やアウトソースに任せ、その比率を上げた結果、より創造的で付加価値のある業務を企業は求めています。特にIT革命によるハイテク資本主義の導入により、業務量や負荷の急増、複雑・多様・スピード化する新しい技術の取得、人事異動や人材流動化の激しさなどに不適応を起こす勤労者が増えています。さらに社運をかけたグローバル対応や新規事業開発に携わる必要性が増えた結果、慢性的な人手不足ゆえに人は増やさず、能力の高い人材が何の心の準備やセーフティネットも担保されない中で送り込まれ、逆に休職や退職者を生み出す負のスパイラルに陥っています。その背景には、終身雇用制度終焉後の自由主義経済に基づく限りない生産性向上の要求や、超顧客主義を唱える日本固有の企業精神にあると考えています。

Q2:その勤労者世代で、現在の我が国における自殺の特徴や背景、うつ病との関係について教えて下さい。

A:平成18年に自殺対策基本法が交付され、以降、高齢者を中心としたうつ病や自殺、多重債務対策などに代表される多方面にわたる全国的な取り組みの成果により、平成24年から15年振りに新たに自殺者が3万人を切ることになりました。しかし、過労自殺による労災認定件数は増加しており、一時的に自殺者が減少しても、中期的に新たな自殺者が増える可能性も残されています。円高不況から大型金融破綻を迎えた平成10年と比較しても、50歳代を除した勤労者世代に連なる20~40歳代における年齢階級別自殺死亡率は未だに高い水準にありますし、仮に現在、景気や雇用状況が改善傾向にあるとしても、経済安定で自殺者が減っているのではありません。日本は、従来から指摘されていることですが、海外と比較しても労働時間が長く、職場環境の悪化や国民の平均睡眠時間が短いことなどが問題であり、雇用構造の変化により、仕事疲れから休職や退職さらに再就職困難を含む「勤務問題」による自殺者が高い水準で持続しており、特に20歳代の若年層に顕著です。勤労者全体の中で一番、多いのが心の健康問題で、特に多いのがうつ病ですが、超少子化社会に突入した現在、この世代のうつ病対策を取り組むことが、引き続き重要課題となります。

Q3:まず、企業においては、どういった対策が必要でしょうか?

A:社内における対応としては、「中級管理職以上に対する労務管理も含めたライフライン」「新人社員に対するセルフケア」2つの視点による研修などを柱としながら、メンタルヘルスやうつ病予防対策を講じていくべきでしょう。本年12月より「ストレスチェック制度」が一部の企業に導入されますが、これによるハイリスク群の社員に対して、企業として、どう介入していくのか、トップの意識改革がまず、重要となります。既にうつ病等で通院している勤労者については、再休職を防ぐために、産業保健管理スタッフ等の設置や通院先の医療機関との連係および情報の共有化が、今まで以上に必要になってくるでしょう。

Q4:では、医療側においては、どういったことが必要でしょうか?

A:近年、うつ病寛解者と比較して、不完全なうつ病回復者の自殺リスクが21倍に跳ね上がること、うつ病の15%は一度も回復せず、38%は再発し、再発を繰り返す毎に難治化に至りやすいこと、早期に双極性障害との鑑別を行わないと生命予後が悪くなるなどの先行研究が多数、報告されています。特に双極性障害は、若年でのうつ病発症や反復するうつ病に多く、過去の軽躁・躁病相の有無の確認が必要であること、抗うつ薬ではなく、気分安定薬による治療が必要で治療が全く異なること、自殺のリスクが一般人口の8~20倍とうつ病よりも高いことから、速やかな専門医への紹介が必要です。特に大企業などでは、瞬時に顧客に対応するスピードや自信、活力、創造性などを備えた業務に対するスタンス、価値観を社員に強く要請することで、個人の能力を超えて発動した結果、軽躁・躁状態に至り、双極性障害に移行したうつ病社員が散見されます。一方、かかりつけ医でも薬物療法を必要としない軽症うつ病に相当するケースは、体の病気と同様にしっかりと診ていただくことも重要です。このように一般科医と精神科医同士の顔が見える医療連携の強化が必要です。県医師会でも、昨年より「石川うつ病GP連携事業」として取り組んでおります。

Q5:その他、地域社会や学校教育において、取り組むことは何かありますか?

A:例えば、借金返済後あるいは、その見込みが得られた段階で自殺をする人がいますが、出来事の意味そのものが発症に関与する心因性ではなく、うつ病の誘因として脳に強い影響を与えることになる結果、うつ病の症状として自殺を行うので、発症しているにも関わらず、未治療者の多重債務の相談だけを行っていても自殺を防げません。しかし、このケースは医療に繋げようとしても相談者が拒否されることも想定されます。日本人特有の自殺によって自身の名誉を守る、責任を取るといった古い倫理規範が優先されるあまり、うつ病に対する認識があまりにもないことが問題なのです。近年は、IT革命を中心とする商業主義の強い影響の中、深夜まで電子機器を使用することで睡眠の質が低下、体内時計の乱れに繋がった結果、うつ病を発症し、起床できず出勤困難あるいは業務の効率が低下する勤労者も多くなりました。さらにCM宣伝に象徴されるように、バブル期以降もアルコール消費量が高止まりとなり、生活習慣病やうつ病の悪化、特に女性を中心に依存症患者が急増していることから、学校教育から人間の健康に特化した教育が必要です。地域の自治体や各企業・業界関係者が協力し、県民が生涯教育として学んでいくシステムや欧米社会に比べ遥かに及ばないアンチ・スティグマ対策などに取り組んでいく必要があります。

Q6:勤労者といえば、うつ病などの休職者に対するリワーク・プログラム(以下、リワーク)が近年、大変、注目を浴びていますが、簡単に紹介していただけますでしょうか?

A:冒頭で申し上げた通り、この十数年の間に復職のハードルが格段に高くなっています。さらに復職の条件として、職業的アイデンティティーに繋がる「社員の内発的なやる気や
動機付け」が必要とされています。ゆえに、うつ病休職者が通常の治療で症状寛解に至っても、安定した睡眠-覚醒リズム、病気に対する理解と受容、復職に必要な作業能力の回復と維持、認知機能の改善、協調性や適切な自己主張、役割行動、対処能力など、集団における対人関係能力の改善が得られていないと、半分近くの方が復職に失敗します。これらは、診察室の場面だけでは確認できないため、一部の精神科医が反省を経て試行錯誤した結果、2008年より「うつ病リワーク研究会」を発足しました。現在、全国には197医療機関が、県内では3医療機関がプログラムを実施しております。実際の通勤と同様に平日、医療機関に通所していただいた上で、精神保健福祉士や看護師、臨床心理士などが中心となり、医学管理モデルに基づいた心理教育や認知行動療法を中心とした複数の集団心理プログラムを施行するものです。あくまで、治療の一環としてのリハビリテーションであることが特徴で、利用期間中のみ転医していただきます。期間中、外来診療スタッフと情報を共有化しながら、リワーク効果としての処方の減量や単純化が可能となりますので、実際の利用者や紹介していただいた主治医にも大変、喜んでいただいております。

平成26年度内閣府による10歳~20歳代までの若者白書によると、困難なことにも意欲的に取り組むことや自分の将来に希望を持っていること、さらに自己肯定感が諸外国と比較して、一番に低く、さらに憂うつであると自覚していることが高いことから、元々、心的エネルギーが低く、健全な自己愛が育ちにくい世代が増えています。この若い世代を中心に自ら軽症段階で受診し、休職となりやすい一方、その割に自宅休養と薬物療法で中々、復職できないケースが増えています。この場合にもリワークは有効であると思います。例えていうと、竹は台風のような強い風に吹かれ、大きく曲げても折れず、風が治まれば元に戻る「しなやかさ」を持つように、現代の社会人も粘り強く、柔軟な発想を持つことが必要で、うつ病等で休職になった勤労者が、リワークを経験することにより、挫折や困難な状況に打ち勝つ「変化に強い心」を獲得し、復職以降の困難性にも対応しながら再発や再休職も防止することが可能となります。
by jotoyasuragi | 2019-01-11 14:43 | 岡敬理事長の健康よもやま話

金沢市にある医療・福祉施設です。


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