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月経前不快気分障害1

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月経前不快気分障害(Premenstrual dysphoric disorder, 以下PMDD)

疾患概念

PMDDは月経前症候群(Premenstrual Syndrome:PMS)の中でも精神症状が著しい群に該当し,DSM-III-Rでは「黄体期後期不機嫌障害」として登場しました。DSM-IV-TR以降では「特定不能のうつ病性障害」の一類型としてPMDDにまとめられ,ICD-10では「他の特定の気分障害」に該当します。

病態
Bringham and Women’s病院(BWH)Connors女性健康ジェンダー生物学部長のJil M.
Goldstein教授らは,女性と男性の脳ではストレスの処理の仕方が異なっており,その結果,疾病の経過も同等ではないことを報告しました。彼らは,健康な男女を対象に機能的MRI(fMRI)を用いて,ストレス刺激の強い状態での脳活動を観察し,女性には,月経周期の初期と排卵期の2回fMRI検査を行い,男性のデータと比較検討を行いました。その結果,ストレス応答における脳活動は,月経周期の初期には男女差がなく,むしろ,同じ女性でも排卵期にはストレス応答の脳活動が男性より強いという結果が得られたのです。同教授は「女性には,脳内のストレス応答を調節する女性特有のホルモン的能力が備わっており,最大の違いは,脳内の自律的覚醒応答を制御する脳領域に見られたことから,男女の脳の基本的な生理学的相違と脳の複数領域における機能の男女差を理解する鍵となる」と述べています(Journal of Neuroscience:2010;30:431-438)。

近年,セロトニン神経系伝達に関連する遺伝情報が書き込まれた遺伝子型であり,染色体番号17に存在するセロトニントランスポーター遺伝子(5HTTLPR:S型とL型に分かれる)の存在が明らかになり,ヴェルツバーグ大学精神医学部のPeter Lesch(1996年)が「S型がセロトニン分泌に関与する」と発表しました。この遺伝子型の割合は人種・民族によって異なり,不安遺伝子とも呼ばれ,日本人はこの割合が高いとされます。また,うつ病の発症において,L型よりS 型の方が多いと報告されています。Jovanovicらは,大うつ病患者の女性は男性と比較してセロトニントランスポーターの低下が顕著であり,さらに健常女性は男性よりセロトニン合成が52%も多く,セロトニン受容体も多いことが報告され,セロトニン系の不均衡が女性の大うつ病に関与することを示唆しており,これらのことが女性にセロトニン系抗うつ薬が有益である結果に繋がるのかもしれないと報告しています(Jovanovic H,Lundberg J,Karlsson P,et al.Gender differences in the 5-HT1A receptor and serotonin transporter in the human brain:a PET study.Eur Neuropsychopharmacol 2007;17:S186)。その一例を紹介しますと,例えば,性別における抗うつ薬の寛解有効率について,各抗うつ薬(Sertraline, Fluvoxamine, Paroxetine, Milnacipran, Maprotiline:いずれも国内使用薬)それぞれの寛解有効率を男性と女性で比較した場合は,Sertralineは女性で有意に(男性55.6%対女性95.0%(P=0.0043))寛解有効率が高かったという報告があります(Morishita S,KinoshitaT,Arita S.Gender differences in a response to antidepressants.Major Depression in Women.(eds),Nova Science Publisher,NY,2008)。

セロトニン神経系や抗ドパミン系作用を有するエストロゲンやGABA(ギャバ:ガンマ-アミノ酪酸)神経系への作用を有するプロゲスチンの関与は明らかではありませんが,中でもエストロゲンとセロトニンの相互作用は卵胞期と黄体期のSSRIの効果発現の相違にも論が及んでいるものの,その関係は極めて複雑であり,決定的なエビデンスはありません。また,排卵月経周期に付随して起こる性ホルモンの減少による内分泌消退性症候群がそのまま成因となって気分障害を発症するという証拠もまだ確認されていません。少なくともGABA・セロトニン・ドパミンの動態に起因し,抗不安薬・抗うつ薬・抗精神病薬の薬理作用と密接に関係すると考えるPMDDは気分障害関連の障害の一つではありますが,その多くは女性ホルモンの分泌異常に由来した排卵月経周期に付随して起こる性ステロイド値の変化を引き金にした身体精神疾患であることから,内因性のうつ病とは区別すべきという意見もあります。以上よりPMDDは性ホルモンと中枢神経系の相互作用が複雑に関連した結果,発現するものと考えられています。

Landenら(2006年)はPMDDを性ステロイドホルモンの影響から非定型うつ病を呈した病態と捉えたことを報告していますが,心理社会的危機と同様にPMDDに代表される内分泌的な危機は生物学的成因論だけに組み入れられるのではなく,気分障害の発症状況や経過に影響を与える因子として大局的に捉えられるべきであろうと考えます。むしろ気分障害がベースにあって排卵期に症状が増悪する病態であって,精神症状が月経周期を通じて存在しており,周期内の症状の軽減がない場合や症状が周期性を持つとしても,特に重い精神症状がみられるならば,即座に月経周期に関連しない気分障害を検討する必要があると思われます。

疫学
DSM-IV基準を用いたCohen やWittchen (いずれも2002年)らは,PMDDは特に30代の成熟女性に多いが,有病率は年齢層によらず,5.8~6.4% と一定していると報告しており,PMDDの女性の大うつ病の生涯罹患率は45~70%に上がるというAngstらの報告もあります。

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by jotoyasuragi | 2010-03-08 10:30 | 心理教育シリーズ

月経前不快気分障害2

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月経前不快気分障害1の続き>

PMDDの診断(DSM-IV-TR の研究用基準案)
A.過去1年の間の月経周期のほとんどにおいて,以下の症状の5つ(またはそれ以上)が黄体期の最後の週の大半の時間に存在し,卵胞期の開始後2,3日以内に消失し始め,月経後1週間は存在しなかった。(1)(2)(3)又は(4)のいずれかの症状は少なくとも1つ存在する。

(1)著しい抑うつ気分,絶望感,自己卑下の観念
(2)著しい不安,緊張,“緊張が高まっている”とか“いらだっている”という感情
(3)著しい情緒不安定性(例:突然,悲しくなる又は涙もろくなるという感じ,又は拒絶に対する敏感さの増大)
(4)持続的で著しい怒り,いらだたしさ,又は対人関係の摩擦の増大

(5)日常の活動に対する興味の減退(例:仕事,学校,友人,趣味)
(6)集中困難の自覚
(7)倦怠感,易疲労性,又は気力の著しい欠如
(8)食欲の著名な変化,過食,または特定の食物への渇望
(9)過眠または不眠
(10)圧倒される,又は制御不能という自覚
(11)他の身体症状,例えば,乳房の圧痛又は腫脹,頭痛,関係痛又は筋肉痛,“膨らんでいる”感覚,体重増加

注:月経のある女性では,黄体期は排卵と月経開始の間の時期に対応し,卵胞期は月経とともに始まる。月経のない女性では,黄体期と卵胞期の時期決定には,循環血中ホルモンの測定が必要であろう。
B.この障害は,仕事又は学校,又は通常の社会的活動や他者との人間関係を著しく妨げる(例:社会的活動の回避,仕事又は学校での生産性及び効率の低下)。
C.この障害は,大うつ病性障害,パニック障害,気分変調性障害,又はパーソナリティ障害のような,他の障害の症状の単なる悪化ではない(ただし,これらの障害のどれに重なってもよい)
D.基準A,B,及びCは,症状のある性周期の少なくとも連続2回について,前方視的に行われる毎日の評定により確認される(診断は,この確認に先立ち,暫定的に下されてもよい)。                     
(「DSM-IV-TR精神疾患の診断・統計マニュアル新訂版」,医学書院,2004年から転載)

障害度
軽微で短期間である反面,罹病期間は累計すると長期(平均400回の月経周期)に及ぶ
ため,未治療のPMDDは,二次的・三次的な機能障害を与えるケースが考えられます。

鑑別疾患
身体的要因として子宮内膜症,甲状腺疾患,SLE,繊維性のう胞性乳房,栄養評価としてカフェイン,塩分摂取などが挙げられます。そのため,経口避妊薬や性腺ホルモンに影響を与える婦人科的薬剤の使用歴をチェックする必要があります。

危険因子
社会心理学的因子,産後うつ病や経口避妊薬による気分変動の既往歴などが挙げられます。

治療
薬物療法として,Steinerら(2006年)によるエキスパート・ガイドラインでは, Sertraline(ジェイゾロフト),Fluvoxamine(デプロメール / ルボックス), Paroxetine(パキシル)(特に前2者が月経への影響が少なく,食欲を抑制する方向に働くことから有効と考えます), FluoxetineやCitalopram(共に国内未発売)などが推奨されますが,主にSSRIによるコントロール研究によって,通常量による有効性が確認されており,月経前の黄体期2週間前から投与するという間歇投与が持続投与による効果と同程度であることが示されています。その他,不安や不眠に対してBZP系薬剤(Alprazolam:コンスタン / ソラナックス)を頓服薬として使用し,体液貯留には利尿剤の短期使用,その他の身体症状には漢方(温経湯:後山ら;2002年)が有効とされます。それ以上に本人と周囲に対して疾病の存在と認識を持たせ,医学的心理教育を行うことが患者を最大限に援助することに繋がると考えます。また,精神症状への影響も無視できないことから,黄体期~卵胞期に起こりやすい片頭痛に対する治療も,併せて行う必要があります(Jクリニックでは,両者の治療も含めた統合的な治療を行っています)。

上記参考文献以外の参考資料
岡野禎治:第3部 臨床上の諸問題 / 第24章 ライフサイクル II 女性のライフサイクルからみた気分障害;気分障害 医学書院 2008年
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by jotoyasuragi | 2010-03-08 10:14 | 心理教育シリーズ

金沢市にある医療・福祉施設です。


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